2024年7月18日のESPR発効から、2026年2月のCENとOPC Foundationのリエゾン、4月のハノーバーメッセでの電池パスポート実証、5月26日のEN規格4本発行、7月20日のDPPレジストリ稼働、9月の参照実装公開とEN規格残り2本の発行、10月16日のOPC 30450-1公開を経て、2027年2月18日の電池パスポート義務化までを、円のノードを直線でつないだ路線図で示した年表 DPPをめぐる規制・規格・OPC Foundationの動き 本文の読む順(遡行) 2024/7/18 [規制]ESPR発効 2026/2 [OPC]CENと リエゾン締結 2026/4/20 [OPC]電池DPPの 実証を公開 2026/5/26 [規格]EN規格 4本発行 2026/7/20 [規制]DPP レジストリ稼働 2026/9 [OPC]参照実装公開 [規格]9/15に残り 2本発行、8本完成 2026/10/16 [OPC]OPC 30450-1 v1.0.0 公開 2027/2/18 [規制]電池パス ポート義務化 [規制]EU法令 [規格]CEN/CENELEC JTC 24のEN規格 [OPC]OPC Foundationの活動 破線は今後の予定(法令で日付が確定しているもの)
ESPR発効からOPC 30450-1公開までの主な出来事。本文はこの線を右端から左へ遡る

2026年10月16日:8つの型と1つの列挙型が公開された

公開されたのは「OPC UA for Digital Product Passport, Part 1: Information Model」(OPC 30450-1)の版1.0.0です。OPC Foundationのオンラインリファレンスでは発行日が2026年10月16日、名前空間は http://opcfoundation.org/UA/DigitalProductPassport/ とされています。適用範囲の章は、EUのエコデザイン規則(ESPR、規則(EU) 2024/1781)が定めるDPPを対象に、欧州規格EN 18223:2026の意味データモデルをOPC UAの型に対応づける、と書いています。

本文は短く、型の定義は第6章と第7章に収まっています。定義されているのは次の9つです。

型役割必須の属性(抜粋)
DigitalProductPassportTypeDPP本体DPP ID、製品の一意識別子、粒度、スキーマ版、状態、最終更新日時、経済事業者ID(拠点IDは任意)
DataElementType全データ要素の抽象基底型要素ID(辞書参照は任意)
SingleValuedDataElementType値1つの項目値
MultiValuedDataElementType複数の値を持つ項目―
DataElementCollectionType項目のまとまり―
MultiLanguageDataElementType言語ごとに値が変わる項目多言語テキストの配列
RelatedResourceType文書・証明書への参照コンテンツ種別、URL
VerifiableCredentialTypeDPPや項目に付ける署名形式、署名データ
GranularityEnumerationDPPの粒度Model=0、Batch=1、Item=2

見てのとおり、ここには「電池の容量」や「カーボンフットプリント」といった製品固有の項目は1つもありません。仕様のユースケースの章は、製品カテゴリーごとの要求が委任法令で示されたら、それに合わせたデータ要素の型を手作業か、AAS(アセット管理シェル)のサブモデルテンプレートからの変換で作る、という段取りを描いています。OPC 30450-1は器の側の取り決めです。

2026年9月:参照実装が先に走り、規格の読み方が割れていた

この仕様より先に動いていたのが、OPC Foundation Cloud Initiativeの参照実装です。参照実装の記事で書いたとおり、生産テレメトリから電池パスポートを組み立て、OPC UAの情報モデルとしてUA Cloud Libraryに保管する構成でした。そのときに引っかかったのが、READMEとCEN-CENELECの紹介とで、EN 18222とEN 18223の範囲の説明が食い違っていた点です。

OPC 30450-1の第4章は、この点をはっきり書いています。EN 18222はDPPデータにアクセスするためのHTTP RESTのAPIで、OPC FoundationのUA Cloud Libraryに実装されている。EN 18223は意味データモデルを定め、DigitalProductPassport、DataElement、DataElementCollectionなどの中核エンティティを規定している。本仕様が対応づけるのはこのEN 18223だ、という整理です。前の記事で「規格本文での確認が必要」とした論点に、少なくともOPC Foundation側の読み方が示されたことになります。ただし当社はEN 18223の本文を確認していないため、これはOPC 30450-1の記述にもとづく説明です。

時期も重なっています。9月15日にはDPPのアクセス権とデータ真正性を扱うEN 18239とEN 18246が発行され、JTC 24の8本がそろいました(8本の整理)。OPC 30450-1は、この8本すべてを引用規格に挙げています。規格群が完成した約1カ月後に、それを写し取る情報モデルが1.0になったという順番です。

2026年2月〜5月:CENとの連携と、電池パスポートの実証

さらに遡ると、2026年2月下旬にCENがOPC Foundationとのリエゾン協定を発表しています。OPC FoundationがDPPの枠組みを策定するCEN-CLC/JTC 24の作業に直接参加するもので、期間は無期限、条件はOPC Foundationが参加を続けることです。OPC Foundationが3月2日に出した発表は、協定の目的の1つに、標準化されたDPPのデータモデルとインターフェースでOPC UAを拡張することを挙げていました。今回の1.0は、この目的の最初の成果物と読めます。

4月20日には、ハノーバーメッセ2026に合わせて、Fraunhofer FFBが率いるBattery Solutions Joint Working Group(Catena-X、IDSA、IDTA、OPC Foundation、VDA、VDMAが参加)がEUデジタル電池パスポートの実証を公開しました。OPC Foundationの発表には、さまざまな出所のDPPテンプレートをOPC UAのNodeSetへ自動変換する部品が含まれています。OPC 30450-1の第4章にも、IDTAやCatena-XがAASのJSON/XML形式で提供するDPPテンプレートを、NodeSetに変換してUA Cloud Libraryへ保管する流れが図示されています。実証で使った変換の考え方が、仕様のなかに取り込まれた形です。

5月26日にはEN 18216(データ交換プロトコル)、EN 18219(一意識別子)、EN 18220(データキャリア)、EN 18222(API)の4本が発行され、7月20日にはEUのDPPレジストリが稼働しました。

2024年7月18日:起点はESPRの発効

線の左端にあるのが、2024年7月18日のESPR発効です。DPPを製品ごとに義務づける根拠はこの規則で、どの製品に何を載せるかは委任法令で順に決まります。技術的な器はCEN/CENELECのJTC 24が欧州規格として用意する、という分担になっています。CEN-CENELECは2026年7月の解説で、8本のうち6本がすでにEU官報に引用され、引用された整合規格に従ったDPPは適合の推定を受けると説明しています。

ESPRとは別の法律で期限が先に決まっているのが電池です。EU電池規則のバッテリーパスポートは2027年2月18日に義務化されます(電池規則の記事)。本稿執筆日から数えて4カ月弱です。

こうして遡ると、「なぜ今か」には2つの答えが見えます。1つは、写し取る元のEN規格8本が9月にそろったこと。もう1つは、仕様の図2がまさに電池パスポートを例に描かれているように、最初の義務化が目前に来ていることです。後者がOPC Foundationの公開時期の判断にどこまで効いたかは発表に書かれておらず、編集部の推測です。

遡った経緯から、MESの担当者が読むべき3か所

1つ目は粒度です。GranularityEnumerationはModel(型式単位)、Batch(バッチ単位)、Item(個体単位)の3値で、EN 18219の3段階に対応しています。Batchを選ぶならMESのロット番号が、Itemを選ぶならシリアル番号が、DPPの単位そのものになります。自社のロットの切り方が製品の出荷単位と一致しているかは、型の議論より先に確かめておくべき点です。

2つ目は、誰がDPPを書くかです。ユースケースの章(5.4)は、BatchやItemの粒度でDPPを作る場合、製造者がDigitalProductPassportTypeのサブタイプを作り、生産中にOTシステムがそれをインスタンス化して、UA Cloud LibraryのAPIで自動的に公開する、という形を示しています。仕様の略語一覧にはMESも載っており、DPPを「MESの新しい出力仕様」と捉えた記事の見方と方向は同じです。ここで言うOTシステムをMESが担うのか、設備側のサーバーが担うのかは仕様では決まっていません。

3つ目はアクセス制御と署名です。製造者はデータ要素ごとにRolePermissions(役割ごとの読み取り権限)を設定でき、外部の試験機関は検証結果を署名付きのデータ要素として追記します。署名の形式は規制当局が決めるものとして、仕様は形式名と署名データの入れ物だけを用意しています。MESの検査記録をDPPに出す場合、どの項目を誰に見せるかの判断が、項目定義の段階で必要になります。

よくある質問

OPC UAに対応していないMESでもDPPを作れますか

作れます。DPPデータへのアクセスはEN 18222のREST APIが担い、OPC 30450-1はDPPをOPC UAのアドレス空間やNodeSetとして扱いたい場合の対応づけです。OPC 30450-1はJTC 24のEN規格8本には含まれていません。工場内のデータ連携をすでにOPC UAで組んでいる場合に、変換の手間を減らせる選択肢と捉えるのが実態に近い読み方です。

OPC 30450-1を読めば、電池パスポートに何を載せるかが分かりますか

分かりません。仕様が定めるのはDPP本体とデータ要素の汎用的な型、署名と粒度の扱いまでです。電池パスポートに載せる項目はEU電池規則とその関連法令が決め、ESPRの対象製品は製品グループごとの委任法令が決めます。仕様は、それらの要求を後からデータ要素の型として追加する前提で書かれています。

AAS(アセット管理シェル)のDPPテンプレートとは競合しますか

仕様自体は、IDTAやCatena-XがAAS形式で提供するDPPテンプレートをNodeSetに変換する使い方を例に挙げており、置き換えではなく変換でつなぐ立場です。社内でAASとOPC UAのどちらを正とするかは、取引先がどちらの形式で受け取るかを確かめてから決めるのが安全です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス MESソリューション部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。