9:40、検査で止まった基板を「直すか、捨てるか」
この基板は手直しすれば出荷できるのか、それとも廃棄に回すべきか。電子機器の工場では、毎日のように修理担当がこの二択を迫られます。
Siemens Digital Industries Software は2026年10月5日、Opcenter の公式ブログに「MESの革新はもはや選択肢ではない」という趣旨の記事を載せ、同社のMES製品群に入るAI機能を「Opcenter Copilot ファミリー」としてまとめて示しました。挙がっているのは Modeling Copilot、AI Repair Advisor、Configurator Copilot、Production Copilot の4つです。記事中で MOM事業を率いる Tobias Lange 上級副社長は、Opcenter が「AIネイティブ」な製品になりつつあると述べています。
機能の一覧を読むだけでは、どれが現場のどこに効くのか判断しにくいので、この記事では架空の工場を用意しました。以下の工場と出来事はすべて当サイトが置いた想定で、実在の事例ではありません。機能の説明は Siemens の公開資料によります。
舞台は、産業機器向けの制御基板を表面実装(SMT)で作る中規模の工場です。午前9時40分、はんだ付け後の自動光学検査で、ある基板のコネクタ周辺にブリッジ(隣り合う端子がはんだでつながる不良)が見つかり、MESがその基板を修理工程へ回しました。
修理台の担当者が端末で基板のシリアル番号を読み込むと、AI Repair Advisor の出番になります。この機能は2026年5月18日に公開された Opcenter Execution Electronics 2604 の新機能紹介にすでに載っていたもので、過去の不良データと生産データをもとに、修理するか廃棄するかを作業者に案内すると説明されています。手法は機械学習で、「最も可能性の高い」修理方法か廃棄かを助言する、という書き方です。10月5日のブログはさらに、複雑な修理手順を作業者に順を追って示し、不良の発生源を絞り込む機能として紹介しています。
想定の工場では、画面に「同じ部品番号・同じ不良コードの過去の修理のうち、再はんだで直ったものが大半」という趣旨の助言が出て、担当者は修理を選びます。ここで効いているのは、AIそのものよりも、過去の不良と修理の結果がMESに正しく残っていたことです。不良コードがあいまいだったり、修理結果を記録していなかったりすれば、学習のもとになるデータがありません。不良コード体系の設計と手直し・再作業の管理が整っていない工場では、この機能は役に立ちにくいはずです(推測)。
10:10、同じ不良がほかのラインでも出ていないかを言葉で聞く
1枚直して終わりではありません。品質担当が知りたいのは、同じブリッジ不良がほかのラインや、同じリールの部品を使った指図でも出ているかどうかです。これまでなら、MESの不良実績を抽出して表計算ソフトで集計するか、情報システム部門に帳票を頼むところでした。
この場面に当てはまるのが Production Copilot です。10月5日のブログは、生の生産データと意思決定の間をつなぐAIの仕組みと説明し、Opcenter MES と統合され、設備の接続性も備えるとしています。生成AIで生産データについて問い合わせる、という使い方です。想定の工場では、品質担当が「直近3日、コネクタJ2周辺のブリッジ不良を、ライン別・部品ロット別に」と打ち込み、特定のリールを使った2ラインで不良が集中していることが分かります。
ただ、発表文から読み取れることには限りがあります。Production Copilot について、ブログは「Opcenter MESと統合する」と書いており、Opcenter の一機能なのか、別の製品として提供されるのかははっきりしません。提供開始の時期、価格、対応する Opcenter の版も書かれていません。
AIに生産データを問い合わせる仕組みは、答えの正しさを人が確かめられることが前提になります。どのテーブルのどの期間を集計した結果なのかが画面に出るかどうかは、評価の際に必ず確かめたい点です。AIエージェントに任せられる範囲の考え方はMESとAIエージェントの記事で整理しています。
11:00、不良コードと工程の流れを直す──会話で変えられることの重さ
原因の見当がついたら、是正です。想定の工場では、ブリッジ不良を「部品起因」と「印刷起因」に分けて記録できるよう不良コードを1つ増やし、問題のリールを使う指図には、実装後に目視確認の工程を一時的に足すことにしました。
この作業を短くするのが Modeling Copilot です。ブログによれば、作業の流れ(ワークフロー)、スクラップコード、部品表の品目を、簡単な対話で更新できます。従来は、モデリング画面で設定項目を1つずつ探して入力していた作業です。
規制対応の観点で見るべきは、対話で作られた変更が、従来の画面操作による変更と同じ監査証跡に残るかどうかです。残るのであれば、変更の入口が会話になっただけで、管理の仕組みは変わりません。残らない、あるいは別の記録になるのであれば、手順書と検証の範囲を見直すことになります。
午後、拡張ロジックの改修と、ブログに並んだ3つの数字
想定の工場では、目視確認の工程を足すだけでなく、特定のリールが段取りされたら自動で目視確認を差し込む拡張ロジックも入れたいと考えました。こうした作り込みは、これまで開発者がMESの設定ツール上で業務ロジックを書いて対応してきた部分です。
Configurator Copilot は、この開発者向けの機能です。ブログは GitHub Copilot をもとに作られたと書いており、メタデータや業務ロジックを自然言語で扱えるとしています。なお、2026年2月12日に公開された Opcenter X 2601 の新機能紹介にも「Opcenter Copilot」という名前の機能が出てきますが、こちらは製品の説明書を読み込んで質問に答える、文書検索の補助です。同じ「Copilot」でも役割が違う点には注意が必要です。
Configurator Copilot が GitHub Copilot をもとにしているなら、開発中のコードやメタデータがどの環境で処理されるのかは、情報システム部門が確認したくなる点です(推測)。ブログはこれについて触れていません。
同じブログには、AI機能とは別に、アーキテクチャの刷新による効果として3つの数字が並んでいます。
いずれも Siemens 自身の主張で、どの構成と比べたのか、どの顧客で測ったのかは書かれていません。「ライセンス費用」は、文脈からOSとデータベースの費用を指すと読めますが、MES本体のライセンス費用を含むのかどうかは明記されていません(推測)。コンテナ化そのものは、2026年8月の Opcenter 2607 のリリースで医療機器向けMESに入っています。
AI機能全体の時期についても整理しておきます。Siemens は2026年1月6日のCES 2026の発表で、Teamcenter、Polarion、Opcenter を含む自社ソフトウェアに9つのAIコパイロットを展開すると表明していました。10月5日のブログは、その Opcenter 分の中身を具体的に名前で示したものと読めます。ただし、4つの機能それぞれの一般提供の時期は書かれておらず、確認できたのは AI Repair Advisor が Opcenter Execution Electronics 2604 の新機能として紹介されている点だけです。製品全般については Siemens Opcenter の製品ページにまとめています。
Opcenter Copilot ファミリーの4つの機能は、すでに使えますか?
2026年10月5日のSiemensのブログは、4つの機能の提供時期や価格を示していません。このうち AI Repair Advisor は、2026年5月18日に公開された Opcenter Execution Electronics 2604 の新機能紹介に載っています。ほかの3つについては、利用中の版で使えるかを販売代理店かSiemensに確認する必要があります。
「Opcenter Copilot」と「Modeling Copilot」などは同じものですか?
同じではありません。Opcenter X 2601(2026年2月)で紹介された Opcenter Copilot は、製品の説明書をもとに質問に答える補助機能です。Modeling Copilot はワークフローや不良コード、部品表を対話で更新する機能、Configurator Copilot は開発者が業務ロジックを自然言語で扱う機能として、別々に説明されています。
ライセンス費用60〜85%削減は、MESのライセンスが安くなるという意味ですか?
ブログは、オープンソースのOSとデータベースへの移行によって削減できると書いています。比較の基準や、MES本体のライセンスを含むかどうかは示されていません。自社の見積もりに当てはめる場合は、現在のOS・データベースの費用がMESの総費用に占める割合を先に確かめてください。
- The future of manufacturing: Why innovation in MES is no longer optional(Siemens Digital Industries Software Opcenterブログ、2026年10月5日)
- What's new in Opcenter Execution Electronics 2604(Siemens Opcenterブログ、2026年5月18日)
- What's New in Opcenter X 2601(Siemens Opcenterブログ、2026年2月12日)
- Siemens unveils technologies to accelerate the industrial AI revolution at CES 2026(Siemens プレスリリース、2026年1月6日)
この記事に出てくる用語
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