「簿外リワーク」はなぜ生まれるか
MES導入後の工場を歩くと、システムに存在しない作業を見つけることがあります。ラインの脇に置かれた手直し待ちの仕掛品、検査で弾かれた後にベテランが直して検査ラインへ戻す品物。実績はどこにも記録されず、直った品物は「一発で合格した」ことになっています。これが簿外リワークです。
原因は現場の怠慢ではありません。システムが正規工程しか表現できないからです。工程は前へ進むものとして設計され、戻る・繰り返す・横道へ逸れるという動きを登録する画面がない。登録できないから記録されず、記録されないから、直行率は実態より良く見え、手直しに費やした工数と材料は原価に乗らず、手直し品がどの検査を再通過したかの証跡も残りません。
手直し管理の設計とは、この「戻る・繰り返す・逸れる」を正規のデータモデルとして持つことです。なお、手直しするか・特採か・廃棄かという処置の決定プロセスは不適合管理とCAPAの領域です。この記事は「手直しすると決まった後」、モノと記録をどう追うかに絞ります。
手直しの経路は3つに分類できる
手直しの実装を難しく感じるのは、場面ごとに形が違って見えるからです。しかし経路として整理すると3つしかなく、それぞれ実装パターンが決まっています。
| 経路 | 場面の例 | モデル化の方法 | 設計上の要点 |
|---|---|---|---|
| ① 工程内やり直し | ねじの締め直し、はんだの修正など、その場で直してその工程の検査をやり直す | 同一工程の実績を複数回持つ(1回目NG、2回目OK) | 実績の回数を数えられること。最新値だけ上書きする設計にしない |
| ② 戻り工程 | 2つ前の工程からやり直す。塗装不良で剥離して再塗装など | 正規ルート上を後退し、そこから再前進する | どの工程まで戻れるか(戻り先の制約)を品目×不良コードで定義 |
| ③ 専用リワークルート | 正規ルートに存在しない修理・解体・部品交換の工程を通す | リワーク用の工程ルートを別途定義し、分岐・合流させる | 合流地点(どの検査から正規ルートへ戻るか)の定義が本体 |
要件定義では、過去1年の手直し実績(現場ヒアリング込み)をこの3分類に仕分けることから始めます。①が大半なら実装は軽く、③が多い工場(修理場を持つ組立系、リワークが工程として確立している電子実装など)は、ルート分岐のモデル化が必要で実装は重くなります。ちなみに②と③の区別は曖昧になりがちですが、「正規ルート上にない作業(解体・部品交換)が発生するか」で分けると判断が安定します。
設計で決めること:回数・再検査・合流点
リワーク回数の上限。同じ品物を何度まで直してよいか。はんだ修正のように熱履歴が品質に効く場合、回数制限は品質要件そのものです。上限を品目×不良モードで定義し、上限到達で自動的に廃棄判定のフローへ送る設計にします。回数を数えるには、①の「実績を上書きせず回数分持つ」構造が前提になります。
再検査の範囲。手直し後にどの検査をやり直すか。修正箇所の再検査だけでよいのか、機能検査まで全部やり直すのか。原則は「手直し作業が影響しうる範囲の検査はすべて再実施」であり、この範囲を不良コード×手直し内容で事前定義しておくと、現場判断のばらつきが消えます。ここを「最後の検査だけ再実施」で一律運用すると、手直しで生じた二次不良(分解時の傷、隣接部品への影響)がすり抜けます。
合流点の統制。③の専用ルートから正規ルートへ戻る地点は、必ず検査工程にします。手直し完了の自己申告で完成品在庫に混ざる経路を残してはいけません。また合流時に、その品物の履歴(リワーク経由であること)が後工程から見える必要があるか、顧客要求として「リワーク品の識別」があるかを確認します。自動車部品や航空宇宙では、リワーク履歴の開示が契約要件になっていることがあります。
材料と工数の記録。手直しで追加投入した部品・材料は、正規のBOM消費とは区別して記録します。ここを区別しないと、手直しの材料費が正規の原価に紛れ、手直しコストの集計ができません。交換で取り外した部品の廃棄処理(在庫からの落とし方)も忘れずに定義します。追加部品の投入には正規工程と同じ投入照合を効かせ、リワーク品の部品構成が実物と一致する状態を保ちます。これが崩れるとジェネアロジーがリコール時に使えなくなります。
手直しデータは「品質改善の一次資料」になる
手直しがシステムに載ると、いままで見えなかった数字が並び始めます。真の直行率(一発合格率)、不良コード別の手直し工数、リワーク回数の分布、手直し後の再不良率。この最後の数字はとくに重要で、「直したはずの品物がまた落ちる率」が高い不良コードは、手直し方法自体が確立していないことを意味します。その手直しは続けるべきではなく、廃棄判定か工程の根本対策に切り替える判断材料になります。
もう1つの重要な使い道は原価です。手直しの工数・材料・再検査コストをロット別に集計できれば、「この製品の利益は手直しコストで消えている」という判断が製品別にできます。失敗コスト(Cost of Poor Quality)の見える化は、品質投資の稟議を通す最短の道です。損失の分解と改善サイクルの回し方そのものは歩留まり分析で扱います。
よくある質問
手直しをどこまでMESで管理し、どこから不適合管理(NCR)に乗せるべきですか。
2段構えが実務的です。あらかじめ手直し方法・再検査範囲・回数上限が標準として定義されている「定型リワーク」は、NCRを起票せずMESの手直しフローだけで回します。はんだ修正や外観のタッチアップなど、日常的に発生し処置が確立しているものです。一方、標準が定義されていない不良、回数上限を超えた品物、顧客承認が必要な処置は、NCRを起票して処置決定のプロセスを通します。すべてをNCRに乗せると品質部門が定型案件で埋まり、すべてをMESだけで回すと逸脱が統制から漏れます。「標準化された手直しか否か」が分岐線です。
手直し品のロット番号・シリアル番号は変えるべきですか。
シリアル管理品は、シリアルを変えずに履歴を積むのが原則です。個体の同一性こそがトレーサビリティの基盤であり、番号を変えると履歴が分断されます。リワーク経由であることは、シリアルに紐づく履歴・状態で表現します。ロット管理品で難しいのは、ロットの一部だけを手直しする場合です。この場合は手直し分を子ロットとして分割し、親子関係を系譜に残す方式が標準です。元ロットに戻して混ぜる運用は、「このロットの一部はリワーク品」という曖昧な状態を作るため、規制産業や顧客開示要件がある場合は避けるべきです。
解体して取り出した部品の再利用は、どう管理すればよいですか。
再利用の可否をまず品目単位で定義します。一度実装・組付けされた部品の再利用を認めるかは品質基準の問題で、認めない品目は解体と同時に廃棄処理(在庫から除去し廃棄理由を記録)します。再利用を認める品目は、「解体回収品」であることを識別できる状態(専用の在庫区分と、可能ならラベルの再発行)で在庫に戻し、受入検査相当の確認を挟んでから引当可能にします。回収品が新品在庫に区別なく混ざる設計は、後から品質問題が出たときに影響範囲を特定できなくするため、最も避けるべき形です。
