「設備は空いているのに着手できない」が起きる理由

ライン3は空いている。材料も棚にある。それでも作業が始まらない。理由を追うと、専用治具が隣のラインで使用中で、しかもその工程を単独で担当できる資格者がその日1名しかシフトに入っていなかった、製造現場でごく普通に起きる話です。

生産計画は多くの場合、設備の空きと人員の頭数しか見ていません。治具・金型・測定器・搬送台車といった「設備でも材料でもないもの」は計画の対象外に置かれがちで、その結果、計画上は成立しているのに現場では着手できない指図が毎日発生します。

MESの生産資源配分・監視(Resource Allocation and Status)は、MESA-11モデルの筆頭に置かれる機能です。その本質は設備稼働のモニタリングではなく、「この作業を成立させるために必要なものが、いま全部そろっているか」を着手の直前に判定し続けることにあります。判定に使う資源の種類を取りこぼすと、この機能は「設備の空き状況を映すだけの画面」に退化します。

ISA-95は資源を4種類に分け、さらに「能力」を切り離している

ISA-95(IEC/ISO 62264)は、製造オペレーションで扱う資源を4つに分類します。この4分類をそのままMESのマスタ構造に落とすのが出発点です。

ISA-95の4つのリソース分類と、クラス・実体・能力の3層構造 製造オペレーション管理が扱うリソース(ISA-95) Personnel 作業者・資格・力量 Equipment 設備・ライン・セル Material 原材料・仕掛・副資材 Physical Asset 治具・金型・測定器 各分類は3層で定義する クラス(型) 例:5トンプレス 実体(個体) 例:PRS-014号機 能力(Capability) 例:いま使えるか/何ができるか 着手可否の判定 = 4分類すべての「能力」がそろっているかのAND条件 1つでも欠ければ作業は開始できない
ISA-95のリソースモデル。4分類それぞれについて「クラス(型)」「実体(個体)」「能力」を分けて定義するのが標準の考え方。

実装で効いてくるのは、「能力(capability)」を資源の個体そのものと分けてモデル化しているかです。「PRS-014号機」という個体が存在することと、「PRS-014号機がいまこの品番を打てる状態にあること」は別の情報です。後者は校正期限、金型の装着状態、保全ステータス、作業者の資格によって刻々と変わります。個体マスタに状態フラグを1つ持たせるだけの設計では、この変化を表現しきれません。

設計で決めなければならない3つのこと

1. 粒度:後から細かくできない

資源をライン単位で持つのか、機番単位で持つのか、装置内のチャンバ単位まで持つのか。粒度は後から細かくするのが極めて難しい設計項目です。粗い粒度で1年運用すれば、1年分の実績履歴が粗い粒度で積み上がります。あとから機番別の稼働率を出したくなっても、過去データは存在しません。

判断基準はシンプルで、「その単位で保全・原価・不良の責任を切りたいか」です。切りたいなら資源として持つ。切る予定がないなら持たない。半導体や電子部品のマルチチャンバ装置のように、1台の装置内で複数の処理単位が並列に動く設備では、装置単位の粒度では稼働も歩留まりも説明できません。Critical Manufacturingがマルチチャンバ装置向けに「リソースクラスタ」というサービスを追加しているのは、この粒度問題に製品側で答えた例です。

2. 確定のタイミング:計画時に予約するか、着手時に判定するか

資源を「計画の時点で予約して押さえる」のか、「着手ボタンを押した瞬間に空いているかを判定する」のか。この2つは似て非なる設計です。

予約型は、金型のように段取り替えコストが大きく、順序を守らないと損をする資源に向きます。着手判定型は、汎用治具や工具のように代替がきき、現場の裁量で融通する資源に向きます。全資源を一律にどちらかへ寄せるのが最も危険で、予約型に寄せすぎると予約の取り消し・付け替え業務が現場の新しい手間になり、着手判定型に寄せすぎると「着手した瞬間に足りないと分かる」だけの仕組みになります。

3. 状態を誰が書き込むか

「使用中」「空き」「保全中」という状態を、誰が・何をきっかけに更新するのか。人がボタンを押すのか、設備からの信号で自動更新するのか、上位の指図完了で連動するのか。ここを決めずに導入すると、画面上は「使用中」なのに現物は空いているという乖離が数週間で発生し、以降その画面は誰も見なくなります。

資源種別ごとに論点は違う

資源種別主な識別方式押さえるべき能力条件見落とされやすい点
設備機番・資産番号保全ステータス、段取り状態、校正期限チャンバ・ヘッド単位の並列処理
作業者社員番号・ICカード資格の有効期限、力量レベル、教育履歴応援者・派遣・複数人作業の扱い
材料ロット・シリアル使用期限、検査合否、引当済み量開封後の残数と有効期限の再計算
治具・金型個体番号装着先、ショット数、寿命残そもそも資源として登録されていない
測定器器物番号校正期限、点検合否校正切れの検知が事後になる

治工具・金型については治工具・金型の管理、作業者の資格条件については作業者管理で個別に扱います。

よくある実装の失敗

失敗1:設備マスタをERPと二重に持ち、同期を人手で回す。 増設や号機の付け替えのたびに片方だけ更新され、数か月で実績が名寄せできなくなります。同期はインタフェースで自動化するか、そもそもMES側では参照だけにするかの二択です。

失敗2:治具・金型を資源として登録しない。 「治具は現場が管理しているから」という理由で対象外にすると、着手可否判定が現実と合わなくなります。冒頭の場面がまさにこれです。

失敗3:稼働状態の分類がKPI定義と噛み合っていない。 資源の状態区分を「稼働/停止/保全」の3つで設計してしまうと、ISO 22400やOEEで必要な計画停止・段取り・チョコ停の区別ができません。状態区分はKPIの定義から逆算して決めるべき項目です(MESで見るべきKPI)。

失敗4:「能力」を持たず、個体の有無だけで割り当てる。 品番が変われば使える設備も変わりますが、能力モデルがないと「この品番をこの号機で作ってよいか」をMESが判定できず、結局は現場の暗黙知に戻ります。

製品による実装の違い

資源モデルの作り込み方は製品によってかなり違います。DELMIA Aprisoは製造・品質・倉庫・保全・労務を単一のプロセスモデル上で扱うため、資源の状態を工程横断で引き回しやすい構造です。Critical Manufacturingは半導体・エレクトロニクス起点で、装置内の並列処理単位や搬送を細かく表現する方向に機能を伸ばしています。Siemensは用途別に製品を分けており、中小向けSaaS版のOpcenter Xでは資源モデルの表現力より導入速度を優先した割り切りが見られます。

選定時に確認すべきは機能の有無ではなく、「自社が資源として管理したい対象を、標準機能のままモデル化できるか」です。標準で表現できない資源をカスタム属性で無理に持たせると、その資源はレポートにも履歴にも出てこない半端な存在になります。

よくある質問

資源の粒度は細かいほどよいのですか?

違います。細かくするほどマスタ整備と現場の入力負荷が増えます。判断基準は「その単位で保全・原価・不良の責任を切る予定があるか」です。責任を切らない単位まで細かくしても、データは増えるだけで意思決定には使われません。ただし、粗い粒度は後から細かくできないため、迷ったときは「実績を機番単位で残し、画面と集計はライン単位で見せる」という非対称な設計が現実的な折衷案になります。

治具や金型は本当にMESで管理すべきですか。既存の管理台帳ではだめですか。

着手可否の判定に使うのであればMES側に持つ必要があります。判定に使わず、寿命管理と所在管理だけが目的なら、既存台帳やCMMSに置いたままでも構いません。分岐点は「その情報がリアルタイムに作業の可否を左右するか」です。ショット数による寿命管理は日次バッチで足りますが、「いまこの金型がどのプレスに付いているか」は着手判定に直結するため、実行系に置く必要があります。

ERPの能力所要量計画(CRP)があれば、MESの資源配分は不要ではありませんか。

時間軸が違います。CRPは週〜日の単位で「能力が足りるか」を見るものですが、MESの資源配分は分〜秒の単位で「いま着手できるか」を判定します。CRPは治具の装着状態や作業者の資格有効期限を見ませんし、見るべきでもありません。両者は代替関係ではなく、粒度の異なる2つの判定です。ERP側で持つべき情報とMES側で持つべき情報の切り分けは、要件定義の初期段階で文書として固定しておくことをおすすめします。

この特集について

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  1. ISA-95 Part 1が15年ぶりに改訂、クラウドとコンテナを正式に取り込む(2025年4月10日発行)
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  3. RAMI 4.0とは?Industrie 4.0を整理する3次元の地図
  4. MES(製造実行システム)とは何か、ISA-95の階層で正確に理解する
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この記事を書いた人

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株式会社サオス MESソリューション部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。