不適合処理を7段階に分解する

「不適合管理機能」という一語で議論すると、必ず認識がずれます。実務は次の7段階からなり、段階ごとに必要なデータも責任者も違います。

  1. 検知:規格外の測定値、外観不良、工程の逸脱を見つける
  2. 隔離:対象の物を、使えない状態にする
  3. 範囲特定:同じ問題を持つ可能性のある範囲を、系譜から割り出す
  4. 判定(処置決定):合格扱い(特採)、再作業、選別、廃棄のいずれにするか
  5. 処置実行:再作業指図の発行、廃棄の実行、顧客への連絡
  6. 原因調査:なぜ起きたか
  7. 是正・予防処置(CAPA)と有効性確認:対策を打ち、効いたことを確認する

このうち、1〜5はMESの領域、6〜7はQMSの領域というのが基本の線引きです。1〜5は物と工程に密着しており、リアルタイムに現場を止める必要があります。6〜7は分析と文書のプロセスで、日〜週の時間軸で動きます。

問題は、この境界が「4の判定」の周辺で滑ることです。判定の権限は品質保証部門にあり、QMS側のワークフローで承認するのが自然ですが、判定結果は即座にMES側の在庫状態に反映されなければ、隔離された物が動かせません。

不適合処理7段階のフローと責任分界図 時間軸:秒〜分 → 時間〜日 → 週〜月 MES ①検知 測定・目視 ②隔離 在庫状態を変更 ③範囲特定 系譜を辿る ⑤処置実行 再作業・廃棄 QMS ⑥原因調査 なぜなぜ・統計 ⑦CAPA 対策+有効性確認 ④判定(処置決定) 特採/再作業/選別/廃棄 判定結果は在庫状態へ即時反映 境界が滑るのは④。権限はQMS側、影響はMES側の在庫状態にある
不適合処理の7段階と、MES/QMSの責任範囲。境界は「判定」に置かれ、判定結果はMESの在庫状態へ即時に戻る必要がある。

分担を決める:3つのパターン

実装パターンは大きく3つに分かれます。企業規模と規制の厳しさで選びます。

パターン構成向く条件注意点
A:MES完結型不適合の記録・判定・処置をMESで完結。CAPAは別途Excel/文書管理規制が緩く、CAPA件数が年数十件以下CAPAの進捗管理が属人化しやすい
B:MES+QMS連携型1〜5をMES、6〜7を専用QMS。不適合番号をキーに双方向連携医薬・医療機器・自動車など、CAPAが監査対象連携の設計が重い。番号体系の統一が必須
C:QMS主導型不適合の起票からQMSで行い、MESは隔離指示を受けるだけ品質部門が強く、複数工場を横断管理する現場からの起票が遅れ、隔離が間に合わないリスク

Cを選ぶ場合の落とし穴を明記しておきます。QMSでの起票は、多くの場合PCからの入力です。現場の作業者が不良を見つけてから、班長がPCで起票するまでに時間差が生まれ、その間に物が次工程へ流れます。Cを採るなら、現場端末から即時に「隔離だけ」を実行できる経路をMES側に残す必要があります。起票と隔離を分離するのが実装上の解です。

設計で決める4項目

1. 隔離を、物理的にどう担保するか

システム上のステータスを「保留」にしても、物が現場にあれば誰かが使ってしまいます。担保の手段は3段階あります。

  • 弱:ステータス変更のみ。ラベルは貼らない
  • 中:ステータス変更+保留ラベルの自動発行+所定の隔離場所への移動指示
  • 強:上記+投入時のスキャンで保留品を検出し、次工程の作業開始を物理的に拒否

規制産業では「強」が前提です。投入時に止められないシステムは、隔離したことになりません。この検証はプロセス管理の機能に依存するため、不適合管理単体では成立しない点に注意が必要です。

2. 影響範囲の自動特定をどこまでやるか

不適合が見つかったとき、「同じ材料ロットを使った他の指図」「同じ設備で同じ時間帯に作った分」「同じ作業者が担当した分」を、どこまで自動で洗い出せるか。この検索が手作業だと、範囲特定に半日かかり、その間に出荷が進みます。系譜のデータモデルが正しく設計されていれば自動化できますが、そうでなければ不適合管理機能をいくら作り込んでも範囲は絞れません。

3. 特採(特別採用/逸脱使用)の記録要件

規格外だが使用を許可する、という判断は、最も厳密な記録が必要です。必要な項目は、①逸脱の内容と数値、②影響評価の根拠、③承認者(複数段階になることが多い)、④適用範囲(この指図のみか、期間限定か)、⑤顧客承認の要否と取得状況、の5点です。特採を「コメント欄への記入」で運用しているシステムは、監査で必ず指摘されます。構造化された項目として持つ必要があります。

4. CAPAの起票基準(トリガー)

すべての不適合にCAPAを起こす必要はありません。基準を決めないと、CAPAが年に数百件立ち上がって全部が滞留します。実務的な基準は、①安全・法規に関わるもの、②顧客苦情に至ったもの、③同一原因が一定期間内に規定回数以上再発したもの、④損失額が閾値を超えるもの、の4つです。③を自動判定できると、CAPAの起票が属人的でなくなります。MES側で不適合を工程・原因コード別に集計し、閾値超過を検知して起票を促す仕組みが有効です。

よくある実装の失敗3つ

失敗1:不適合番号とロット番号を1対1で持つ。 1つの不適合が複数ロットに及ぶ、逆に1ロットで複数の不適合が発生する、という状況は普通に起きます。多対多で持てる設計にしないと、範囲が広がったときに新しい不適合番号を立て直すことになり、履歴が分断されます。

失敗2:再作業の実績を通常の生産実績と区別しない。 再作業した分を通常の生産数として計上すると、生産数が実態より多く見え、不良率が実態より低く見えます。再作業指図は別の指図種別として持ち、原価も工数も分けて集計します。再作業コストが見えていない工場は、不良の真のコストを知りません。

失敗3:CAPAの有効性確認が期日管理されない。 CAPAは対策を打って終わりではなく、一定期間後に「再発していないこと」を確認して閉じます。この期日管理がシステム化されていないと、対策実施のまま開いたCAPAが数十件溜まります。FDAの査察やISO 9001の審査では、閉じていないCAPAの滞留件数そのものが指摘対象になります。

規制側の動きと、実装への影響

不適合・CAPAは、規制の変化が実装要件に直結する領域です。2025年以降で押さえるべきは2点です。

1. FDA CSA最終ガイダンス(2025年9月24日)

米国FDAは「Computer Software Assurance for Production and Quality System Software」の最終ガイダンスを2025年9月24日にFederal Registerで公示しました。21 CFR Part 820を基礎とし、テスト一辺倒ではなくリスクベースのアプローチを認めるものです。不適合管理・CAPAを担うソフトウェアは、まさにこのガイダンスの対象であり、バリデーション工数の見積もり前提が変わっています。詳細はFDAとEUの規制の非対称を扱った記事で整理しています。

2. EU GMP Annex 11改訂案(2025年7月7日公開)

Annex 11は5ページから19ページへ拡充され、17章+用語集の構成になりました。重点がバリデーション中心から、セキュリティ・アイデンティティ/アクセス管理・監査証跡へ移っています。不適合の判定と特採の承認は、まさにアクセス管理と監査証跡の対象です。承認権限がロールで厳密に分離され、その変更履歴が残ることが要求されます。

QMSを持っていない企業は、CAPAをMESで管理してよいですか?

規模と件数によります。年間のCAPA件数が数十件以下で、監査が顧客監査のみであれば、MESの不適合管理を拡張して運用できます。ただし最低限、①CAPAごとに担当者と期日が設定され、②期日超過が自動で可視化され、③有効性確認のステップが必須になっている、の3条件を満たす必要があります。この3つが標準機能で満たせないなら、無理にMESへ載せず、専用のQMSか、少なくともワークフロー基盤を別に用意したほうが結果的に安く済みます。判断の分かれ目は機能ではなく、期日管理を人が見なくても回るかどうかです。

不適合の原因コードは、どのくらいの粒度で作るべきですか?

2階層にするのが実務的です。第1階層を10〜15個の大分類(材料、設備、作業方法、環境、測定、設計)に固定し、第2階層で各20個以内の詳細コードを持ちます。合計200個を超えると入力時に選べなくなり、「その他」が増えて分析不能になります。重要なのは、コード体系を後から統合・分割できるようにしておくことです。具体的には、コードに階層構造を持たせ、過去の記録は旧コードのまま残しつつ、分析時に新体系へマッピングできる対応表を持つ設計にします。コードを直接書き換える運用にすると、過去データの意味が変わってしまいます。

不適合の記録が現場で入力されず、後からまとめて入力されています。改善方法はありますか?

入力される場所と時点を変えるのが最も効果的です。多くの場合、不適合の記録は「不良品を置いた後に事務所のPCで入力する」運用になっており、この移動が入力の遅れと漏れを生みます。対策は、①現場端末から不良判定を行い、その場でコードを選ぶだけで記録が完了する、②不良判定と同時に保留ラベルが自動印字され、貼付が作業の一部になる、③工程完了の条件に「良品数+不良数=投入数」の一致を入れ、数が合わなければ次へ進めない、の3つです。特に③は強力で、記録漏れが物理的に発生しなくなります。ただし、③を入れるなら差異理由の入力経路を用意します。用意しないと、数を合わせるための虚偽入力を誘発します。

この特集について

規制がMESに求めるもの

FDA CSA、EU GMP Annex 22、DPP。規制の改訂はそのままMESの要件になる 全68本

  1. 自動車製造のMES導入、Catena-Xとバッテリーパスポートが変える完成車工場の記録
  2. 医薬品製造のMES導入、Annex 11改訂とeBRが変えるバリデーションの前提
  3. 医療機器製造のMES導入、eDHRとUDIを軸にEU MDR改正とFDA CSAを読む
  4. QMSとは?「仕組み」と「ソフトウェア」の2つの意味を持つ言葉
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この記事を書いた人

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株式会社サオス MESソリューション部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。