「スキャンしているのに誤投入が起きる」構造

誤投入対策としてバーコードスキャンを導入したのに事故が続く。この相談は珍しくありません。調べるとほぼ次のどれかが見つかります。

  • スキャンの結果がその場で判定されず、記録されているだけ(事後に照合ログを見れば分かる、という状態)
  • 照合NGでも投入操作自体は物理的にできるため、画面の警告を閉じて作業が続いている
  • 容器のバーコードは読んでいるが、中身の詰め替えや小分けで容器と中身が一致していない
  • 正規の画面が使いにくく、現場が照合を通らない別の投入経路(手入力画面、事後一括登録)を使っている

スキャナーを配ることと、誤投入を起こさせないことの間には距離があります。この距離を埋めるのが照合ロジックと例外処理の設計です。なお、バーコード・RFID・画像認識といった識別手段そのものの選定はバーコード・RFID・画像認識の使い分けで、収集方式の全体像はデータ収集で扱っています。この記事は「読んだ後、何を判定し、NGのとき何が起きるか」に絞ります。

照合ロジックは4要素×判定タイミングで決まる

投入照合で判定できる要素は4つです。どこまで判定するかで実装の重さが大きく変わるため、要件定義では要素ごとに要否を決めます。

照合要素判定内容必要なマスタ・情報判定できないと起きる事故
品目指図のBOMにある品目か製造BOM、代替品の定義類似品番の取り違え
ロットそのロットを使ってよいか(合格済・期限内・ホールドでない・引当済)ロット状態、有効期限、引当情報不合格ロット・期限切れの投入
順序いま投入すべき材料か(投入順制約のある配合)投入順序の定義反応系での投入順ミス
数量指図量に対して適量か指図量、許容範囲、投入済累計過投入・投入漏れ

品目とロットの照合は必須と考えるべきです。順序と数量は業種によります。化学反応や配合のある工程では順序照合が事故防止の核になる一方、組立系では不要なことが多い。数量は、計量を伴うなら秤量・分注管理の守備範囲で、個数モノなら投入照合側で累計を数えます。

判定タイミングも設計事項です。投入の瞬間に1回だけ照合するのが基本形ですが、ロット状態は時間とともに変わります。キッティング時に照合済みでも、投入時点でそのロットがホールドされているかもしれません。原則は「物理的に戻せなくなる直前の照合が正」です。段取り時の照合は準備の効率化、投入直前の照合が統制、と役割を分けて両方置くのが堅い設計です。

例外処理の5論点:ここが設計の本体

論点1:バーコードが読めないとき。ラベルの汚損・欠落は必ず起きます。手入力への切り替えを許すか、許すなら誰の承認で許すか。推奨は、手入力を「例外操作」として権限者承認+理由記録つきで許すことです。全面禁止にすると現場が止まり、無条件に許すと手入力が常態化します。手入力率を月次で集計し、多い工程はラベル運用側を直します。

論点2:代替品・グレード互換。「A品目の代わりにB品目を使ってよい」という代替関係をどこに定義するか。BOM上の代替品定義で照合を通すのが原則で、現場判断での読み替えを許してはいけません。代替品の使用は正常系として通しつつ、使用実績には「代替品を使用した」ことが残る設計にします。

論点3:照合NGの強制解除(オーバーライド)。期限切れロットだが品質部門が使用可と判定した、といった正当な例外はあります。解除権限を条件の種類ごとに分け(期限系は品質部門、順序系は監督者、など)、理由コードと承認者を記録します。この構造はプロセス管理機能のオーバーライド設計と共通です。

論点4:二重投入・投入取消。同じ容器を二度スキャンしたとき、二重投入として弾くのか、分割投入の2回目として受けるのか。容器単位で全量投入なら前者、量り取りなら後者であり、品目ごとに投入モードを定義しておかないと判定できません。誤って投入登録した場合の取消操作も、物理的に取り出せたのか(取消)、取り出せず混ざったのか(不適合)を区別して記録します。後者は不適合処理への入口です。

論点5:照合対象外の材料。水・溶剤・バルク供給される粉体など、容器バーコードが存在しない材料をどう扱うか。「照合対象外」という区分を明示的に持ち、対象外の理由を定義しておきます。ここを曖昧にすると、照合実績の網羅性を監査で説明できません。

導入の順序と、効果の測り方

投入照合は全工程一斉に入れる必要はありません。誤投入の影響度で工程を並べ、上位から入れます。影響度の評価軸は「間違いが後工程で検出できるか」と「間違いの回復コスト」の2つです。混ざったら分離できない配合・充填工程が最上位、目視で気づける外装部品の組付けは下位です。

効果測定には2つの数字を使います。誤投入の発生件数(結果指標)と、照合NGの発生率(先行指標)です。照合NGは「システムが事故を止めた回数」であり、ゼロが良いわけではありません。稼働直後にNGが多発するのはマスタと現物の不一致が洗い出されている健全な状態で、3〜6か月でNG率が下がり安定していくのが正常な経過です。NG率が下がらない場合は、マスタ整備かラベル運用に構造的な問題が残っています。この分析は投入実績がジェネアロジーとして蓄積されていれば、工程別・材料別に分解できます。

よくある質問

投入照合とキッティング時の照合は、どちらか一方でよいですか。

目的が違うため、理想は両方ですが、一方だけ選ぶなら投入時です。キッティング時の照合は「正しい材料を揃える」ための準備の統制で、揃えた後の取り違え(隣のラインへの誤配膳、段取り替え時の戻し忘れ)は防げません。投入時の照合は物理的に混ざる直前の最後の関門であり、事故防止への寄与が直接的です。キッティング側の設計はキッティング・段取り準備で扱いますが、両方入れる場合も「正」は投入時照合に置き、キッティングは効率化と位置づけるのが原則です。

現物のバーコードは何をキーにすべきですか。品目コードのバーコードでは不十分でしょうか。

品目コードだけのバーコードでは、4要素のうち品目照合しかできません。ロット照合を成立させるには、ラベルにロット番号まで含めるか、容器ごとの一意なID(ライセンスプレート)を発行して、IDにひもづく品目・ロット・数量をシステム側で管理する方式にします。推奨は後者です。ラベルが1種類で済み、分割・統合の履歴も追え、数量情報も持てるためです。ただしライセンスプレート方式は入庫・小分けの時点でID発行が必要になるため、倉庫側の運用整備とセットで計画します。

協力会社からの支給材や、現場で小分けした材料はどう照合しますか。

照合できるのは「ラベルと中身が一致している」ことが保証された範囲だけです。したがって、小分け・詰め替えを行う場所を限定し、その場でシステムから子ラベルを発行する運用を必ずセットにします。現場の判断で手書きラベルを貼る運用が1か所でも残ると、その材料の照合は形式だけになります。外部からの受入品は、受入検査・受入登録の時点で自社ラベルへ貼り替える(または自社IDを追加発行する)のが原則です。

この記事を書いた人

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株式会社サオス MESソリューション部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。