9月29日の合意で決まったこと、まだ決まっていないこと
設備更新の見積書に「TSN対応」と書かれていたら、何を確かめて合格としますか。2026年10月の時点で、その問いに「この認証を取っていること」と一言で答える方法はまだありません。
OPC Foundationは2026年9月29日、ブリュッセル発のプレスリリースで、TSN(Time-Sensitive Networking、時間確定性を持たせたイーサネット)の普及団体 Avnu Alliance との協業合意を発表しました。中身は、TSNの試験・認証とOPC UA FX(Field eXchange、OPC UAをコントローラ間やフィールド機器まで広げる仕様群)の統合をそろえること、スイッチと端末(エンドステーション)向けの共同認証の経路を整えること、適合要件と受け入れ試験を両団体で調整すること、の3点です。試験の土台には、産業オートメーション向けTSNプロファイル IEC/IEEE 60802 の共通試験仕様を使うとしています。
押さえておきたいのは、発表文の動詞です。共同認証の経路は「開発する」段階で、制度の開始日も、認証ロゴも、試験を受け付ける機関も示されていません。Avnu側のDave Cavalcanti会長は、仕様づくりからマルチベンダーの機器試験と認証へ進むための協業だと説明しています。つまり今回の合意は、認証が始まったという知らせではなく、始めるための段取りが決まったという知らせです。
周辺の動きを並べると、4段のうちどこが固まっていて、どこがまだかが見えてきます。
60802の第1版は2026年6月に発行されました。220ページの規格で、ブリッジ(スイッチ)と端末がどのTSN機能をどう設定して持つべきかを選び出した「プロファイル」です。プロトコルそのものではありません。共通試験仕様は、Avnu、CC-Link協会(CLPA)、ODVA、OPC Foundation、PROFIBUS & PROFINET International の5団体が2022年6月14日に共同作成を表明したもので、各団体の試験の共通の基礎にするという位置づけでした。
FX側の実機検証も進んでいます。OPC Foundationの会報によれば、9月7〜10日にドイツ・エスリンゲンのFestoで開いたOPC UA FXのプラグフェスト(相互接続試験会)には16社28名が参加し、コントローラ間(C2C)とコントローラ・デバイス間(C2D)の通信、UDPマルチキャスト、VLANタグによる優先制御、gPTPによる時刻同期を試しました。試した通信経路はすべて成功したと報告されています。9月28〜29日にはシュトゥットガルト大学ISWで産業用TSNのプラグフェストも開かれました。FXの仕様は7月27日に保守版 V1.00.04 が出ています。FX全体の到達点はOPC UA FXの現在地をまとめた記事で整理しました。
以下の4つは、この「規格と試験はある、認証はまだ」という端境期に、設備やネットワークを発注する側が踏みやすい失敗です。
失敗1:「TSN対応」の一語を仕様書の合格条件にしてしまう
避け方は、合格条件を言葉ではなく「何で確かめたか」で書くことです。見積依頼の段階で、少なくとも次の4点を回答させます。
- 準拠をうたうプロファイルの名前と版(IEC/IEEE 60802 第1版か、それ以前の草案か)
- 準拠の根拠が自己宣言か、第三者の試験か。第三者なら試験機関と試験仕様の名前
- 2026年9月のFXプラグフェストや産業用TSNプラグフェストへの参加有無と、そこで確かめた項目
- Avnu/OPC Foundationの共同認証が始まった場合に取得する予定があるか、その時期の見込み
4番目は今は「予定」でしか答えられません。それでも書かせておくと、認証が始まった後に仕様書を差し替える根拠になります。
失敗2:仕様の版を書かずに発注する
避け方は単純で、契約書と受け入れ試験の記録に版番号を残すことです。FXなら V1.00.04 のように、60802なら第1版と書きます。あわせて、納入後に保守版が出たときにファームウェア更新で追従するのか、追従するなら誰の費用でいつ行うのかを、保守契約の条項として決めておきます。MESの側から見ると、この版の情報は設備マスタの属性として持っておくと後で効きます。どのラインのどの機器がどの版で動いているかが分かれば、不具合情報が出たときに影響範囲をすぐ絞れるからです。
失敗3:MESをFXのネットワークに直接ぶら下げる設計にする
避け方は、境界の位置を先に決めることです。ISA-95の階層で言えば、FXとTSNはレベル1〜2の内側の仕組みで、MESはレベル3です。MESはコントローラやエッジ機器が公開するOPC UAの情報モデルをクライアントとして読みに行き、TSNのドメインには入らない、という線を設計書に一行書いておくと、ネットワーク担当とMES担当の議論がかみ合います。セキュリティのゾーンとコンジット(ゾーン間の通信路)の考え方はIEC 62443の記事、情報モデルの読み方はOPC UA入門が参考になります。
例外もあります。品質判定の根拠になる高頻度の計測値を、ミリ秒単位の時刻付きでMES側に残したい場合です。この場合もMESが直接TSNに参加するより、エッジでまとめてからOPC UAやMQTTで上げる構成のほうが、責任の切り分けがしやすいと考えます(推測)。クラウドまでの経路を一式で示した例として、OPC Foundationのクラウド参照実装の記事も参照してください。
失敗4:時刻の出どころを2つ持ったまま運用を始める
避け方は、MESが記録する時刻の「出どころ」を項目ごとに決めることです。OPC UAのデータ値には、値が発生した側の時刻(SourceTimestamp)と、サーバが受け取った時刻(ServerTimestamp)の2つを持たせられます。工程の実績や品質判定に使う時刻はSourceTimestampを採り、MESに届いた時刻は別の列で残す、といった決め方をしておけば、後から並べ直しができます。あわせて、gPTPのグランドマスタ(基準時計)とNTPサーバがどこで同じ時刻源に揃うのかを、ネットワーク構成図に書き込んでおきます。査察や監査で記録の順序を問われたときに、説明の出発点になる図です。
よくある質問
Avnu/OPC Foundationの共同認証はいつ始まりますか
2026年9月29日の発表では、開始時期は示されていません。示されたのは、スイッチと端末向けの共同認証の経路を開発し、適合要件と受け入れ試験を両団体で調整するという方針です。11月24〜26日のSPSでFXのデモウォールが公開される予定なので、その前後の追加発表を確認するのが現実的です。
TSNを使わないOPC UAの設備接続にも影響はありますか
直接の影響はありません。今回の合意は、TSNの上でOPC UA FXを使う機器の試験と認証が対象です。既存のOPC UAクライアント・サーバ接続でMESが設備データを集めている構成は、そのまま使えます。影響が出るのは、コントローラや機器を更新するときに、その機器がTSNやFXに対応していて、仕様書の書き方を決める必要が出た場面です。
PROFINETやEtherNet/IPを使っている工場は関係ありますか
関係はあります。60802の共通試験仕様は、PROFIBUS & PROFINET International やODVAも加わった5団体で作成を進めてきたもので、各団体の試験の共通の基礎にするという位置づけです。プロトコルが違っても、TSNの層では同じプロファイルと試験の考え方を共有する方向にあります。各プロトコルの認証の具体的な扱いは、それぞれの団体の発表で確認してください。
- OPC Foundation and Avnu Collaborate to Advance TSN in Industrial Automation through Testing, Certification and Interoperability(OPC Foundation、2026年9月29日)
- Field Level Communications Corner – September 2026(OPC Connect/OPC Foundation、2026年9月)
- IEC/IEEE 60802:2026 Time-Sensitive Networking Profile for Industrial Automation(iTeh Standards 規格カタログ)
- Single Common Conformance Test Plan to be Available for the IEC/IEEE 60802 TSN Profile for Industrial Automation(PROFIBUS & PROFINET International、2022年6月14日)
