価格と他社比較は扱わない、見るのは「ロット照会」1件の前後

この記事では、PLEXの価格、他社のクラウドMESとの機能比較、どちらを選ぶべきかという判断は扱いません。NSSOLの発表文に価格は書かれておらず、比較に耐える材料もそろっていないからです。代わりに、1つの業務が導入の前後でどう変わるかだけを追います。

発表の中身から確認しておきます。日鉄ソリューションズは2026年10月15日、ロックウェル オートメーション ジャパンが提供するクラウド型MES「PLEX」の販売を始めたと発表しました。NSSOLは導入から既存システムとの連携、運用の定着までを一貫して支援するとしています。支援の柱として挙げているのは、Fit to Standard(業務をシステムの標準機能に合わせて見直す考え方)による工場ごとの業務の標準化、現場データの見える化、ERPやSCM・物流・品質管理・設備システムとの連携、導入後の運用定着と継続的な改善の4つです。同社は20年以上、100件以上のMES導入支援の実績を背景に挙げています。

対象として名指しされているのは、組立製造業を中心に、自動車・自動車部品、電機・電子部品、産業機械、食品で、多品種の生産や複数拠点での生産管理をしている企業です。PLEXそのものは新製品ではありません。Rockwell Automationは2021年9月に米Plex Systemsの買収を完了し、日本法人は2023年10月1日から、Microsoft Azureの国内データセンターでのクラウド提供と日本語画面の対応を始めています(日経クロステック、2023年9月15日)。今回の発表は、国内大手のSIerが販売と導入の担い手に加わったという意味を持ちます。

ここから先の工場と出来事は、すべて当サイトが置いた想定で、実在の事例ではありません。舞台は、国内に2工場、タイに1工場を持つ自動車部品の組立メーカーです。月曜の朝、得意先の品質部門から「先週納入したロットに不具合の疑いがある。同じ部材を使ったロットがどこにあるか、今日中に知りたい」という問い合わせが届きます。

これまで:3つの工場の様式の違いを、人がつないでいた

問い合わせを受けた本社の品質保証担当は、まず3つの工場に電話とメールを入れます。部材のロットから完成品のロットへの紐付けは、各工場がそれぞれの方法で残しています。A工場は作業日報を紙で残し、週に一度Excelへ転記しています。B工場はExcelで記録していますが、列の並びと品番の書き方がA工場と違います。タイ工場は現地で作った帳票で、ロット番号の採番ルールそのものが国内と異なります。

各工場の担当者がそれぞれの記録を探し、見つかった行を本社へ送り返します。本社では、3つの様式を同じ表にそろえる作業が始まります。品番の表記ゆれを直し、日付の書式を合わせ、タイ工場のロット番号を国内の番号と対応づけます。在庫の数字は別のシステムから取るため、記録された時点がずれていて、出荷済みか倉庫にあるかの判定に電話での確認がもう一往復入ります。

この想定で時間を食っているのは、記録を探すことよりも、意味をそろえることです。NSSOLの発表文も、紙やExcelの運用が残って生産実績・品質・在庫の情報が分散していること、拠点ごとに業務プロセスや運用ルールが異なることを、導入の背景として挙げています。Excel管理の限界を判断する3条件で整理したとおり、記録の量よりも、定義の違う記録が複数あることが照会を遅らせます。

上段の「これまで」は、問い合わせ、3工場への電話とメール、工場ごとのExcelと紙の検索、本社での様式合わせ、在庫の再確認、回答の6段階。下段の「これから」は、問い合わせ、共通画面でのロット検索、同じ定義の実績・品質・在庫の確認、回答の4段階。下段の前提として、導入前に3工場の手順と採番をそろえる工程がある。 これまで(3工場がそれぞれの様式で記録) 得意先からの 問い合わせ 3工場へ 電話・メール 工場ごとに 紙・Excelを検索 本社で様式・ 採番を合わせる 在庫を 電話で再確認 回答 時間を食うのは「探す」より「意味をそろえる」 これから(導入前に手順と採番をそろえ、記録は1か所) 得意先からの 問い合わせ 共通の画面で 部材ロットを検索 実績・品質・在庫を 同じ定義で3工場分確認 回答 前提:導入前のFit to Standardで、3工場の手順・品番・ロット採番をそろえる
想定の自動車部品メーカーで、同じロット照会を導入の前後で並べた業務フロー(工場と出来事は当サイトの想定)

これから:先に手順をそろえ、記録を1か所に置く

同じ問い合わせが、導入後に届いたとします。品質保証担当は電話をかける前に、PLEXの画面で部材ロットを検索します。3つの工場の製造実績・品質・在庫が同じ場所に、同じ定義で記録されていれば、どの完成品ロットに使われたか、そのうちどれが出荷済みでどれが倉庫にあるかを、1つの画面の範囲で追えます。NSSOLの発表文は、PLEXの特徴として、OT(制御・運用の技術)とITを統合し、製造実績・品質・在庫などの現場データをリアルタイムで一元管理する点を挙げています。

ただし、この想定で照会が速くなった本当の理由は、画面の側にはありません。導入の前に、3つの工場の作業手順、品番の書き方、ロット番号の採番ルールをそろえたことが効いています。タイ工場の採番を国内に合わせるのか、国内を新しい共通ルールに寄せるのか。A工場が紙の日報でしか記録していなかった中間工程の実績を、今後はどの時点で誰が入力するのか。こうした決定がされていなければ、クラウドに載せても3つの様式がそのまま1つのデータベースに並ぶだけです。

NSSOLが支援の筆頭にFit to Standardを置き、個別開発を抑えて国内外の複数拠点へ展開すると書いているのは、この順番を指していると読めます。SaaS型のMESは、拠点ごとに画面や帳票を作り込む余地が小さいぶん、業務の側を標準機能に寄せる判断が早い段階で求められます。

もう1つ、導入後に変わる仕事があります。発表文は、PLEXの機能が随時アップデートされ、最新機能を使った改善を続けられる点を挙げています。オンプレミスのMESでは、更新の時期を自社で決めるのが普通でした。SaaSでは、提供側の更新に合わせて、画面や手順の変化を現場へ伝え、必要なら社内の検証をやり直す役割が発生します。想定の会社では、本社の品質保証部に、更新内容を3工場向けに読み替えて通知する担当を置くことになります。

前後を並べて残る、導入前に決めておく3つのこと

想定の照会業務を前後で比べると、変わるのは連絡と様式合わせの手間で、変わらないのは「誰がいつ何を記録するか」を決める責任のほうです。そのうえで、移行前に決めておきたいことが3つあります。

1つ目は、標準に合わせない業務の線引きです。Fit to Standardで全業務を標準に寄せられるとは限りません。得意先ごとに指定される帳票や、特定の工程だけにある検査の記録など、残すと決めた個別業務を、PLEXの外に置くのか、連携で補うのかを先に決めます。発表文はERP・SCM・物流・品質管理・設備システムとの連携も支援範囲に含めていますが、どの業務をどちらに置くかは導入する側の判断です。

2つ目は、データの置き場所です。日経クロステックの2023年9月の報道によれば、PLEXは国内ではMicrosoft Azureの国内データセンターで提供されています。国内工場だけなら論点は小さくても、海外拠点のデータを国外のクラウドに置けるかは、その国の規制や得意先との契約で決まります。今回の想定のタイ工場は問題にならない前提で書きましたが、中国に拠点がある場合などは別途の確認が必要です。クラウドMESとオンプレミスの判断基準の記事で、この論点を整理しています。

3つ目は、展開の順番です。3拠点を同時に切り替えるか、1工場で手順を固めてから広げるかによって、標準の決め方が変わります。最初の工場の手順がそのまま全社標準になりやすいため、最初に選ぶ工場が他の2工場と大きく違う場合は、その工場の業務を標準と見なしてよいかを先に議論しておくほうが安全です。多拠点展開の進め方はグローバル・多拠点展開のMES選びでも扱っています。

PLEXの製品としての位置づけ、Rockwellが別系統で持つエッジ型の実行基盤との関係は、Rockwell Automation(Plex / FactoryTalk)の製品ページにまとめています。

よくある質問

PLEXは今回新しく日本で発売された製品ですか?

新製品ではありません。Rockwell Automationは2021年9月に米Plex Systemsの買収を完了し、日本法人のロックウェル オートメーション ジャパンは2023年10月1日からMicrosoft Azureの国内データセンターでクラウド提供を始めています。2026年10月15日の発表は、日鉄ソリューションズが販売と導入支援の担い手に加わったというものです。

NSSOLの支援はどこまでの範囲ですか?

発表文によれば、Fit to Standardによる業務の標準化と多拠点展開、現場データの見える化、ERP・SCM・物流・品質管理・設備システムとの連携、導入後の業務設計・教育・運用定着までです。価格や契約形態は発表文に書かれていないため、個別の問い合わせで確認する必要があります。

対象になるのはどんな工場ですか?

発表文では、組立製造業を中心に、自動車・自動車部品、電機・電子部品、産業機械、食品が挙げられ、特に多品種の生産や複数拠点で生産管理を行う企業が想定されています。プロセス型の業種や規制の強い業種への適合は発表文から判断できないため、個別に確認が必要です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス MESソリューション部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。