6項目の機能一覧と、発表文に書かれていないこと

カミナシが2026年10月21日にPR TIMESで配信した新製品のリリースは、機能一覧がわずか6項目で、最後の1項目はCSV出力です。製品名は「カミナシ 生産実績」、提供開始は2026年11月1日。紙に書いていた出来高・不良・停止の3点をタブレットなどで直接入力し、可動率、サイクルタイム、不良率、停止時間を自動で算出します。

No.機能(リリース記載)中身
1生産記録画面に沿って出来高・不良・停止を入力
2生産計画登録計画を登録し、実績と比べる
3生産進捗ダッシュボードラインごとの進捗と稼働状況を表示
4生産指標グラフ進捗、可動率、CT、不良率、停止時間を自動でグラフ化
5不良・パレート分析不良原因と停止理由をパレート図で並べる
6CSV出力記録データの書き出し

同日のリリースでは、シリーズCで約22.1億円を調達したことと、同社の製品群を「現場オペレーションHub」としてまとめる構想も発表されています。製品数は1つから5つに増え、新規受注額の約7割が複数製品のセット契約だと同社は説明しています。料金は初期費用と月額費用のプラン制で、金額は公表されていません。

書かれていないことも押さえておきます。ERPやMESとのAPI連携は、リリースにも製品ページにも記載がありません。設備データとの連携は、導入企業のコメントの中で「今後の期待」として出てくるだけで、提供済みの機能としては書かれていません。製品ページには、基幹システムがなくても単体で使えること、最短1週間で運用を始められることが書かれています。つまりこの製品は、MESの置き換えではなく、紙と電卓とExcelで回っている現場の記録を最初にデジタルへ移す道具として設計されています。

事例として名前が出ているのは、自動車用部品と産業機械用シートをつくるナルコです。同社は生産記録に月約1,000枚のA4用紙を使い、毎日のPC入力とファイリングに工数をかけていたといいます。もう1社、パイプやシャフトの部品を加工するM社は、半年で全30ラインに広げる目標を掲げています。

4つの失敗を番号付きカードで示した図。1は紙の様式を画面に写すこと、2は可動率の定義を決めないこと、3は入力のタイミングを決めないこと、4はCSVの出口を決めないこと 1 紙の様式をそのまま画面にする 表面化する場所:入力画面 停止理由が自由記述のまま残り、 パレート図が「その他」で埋まる 2 指標の定義を決めずに集計する 表面化する場所:ダッシュボード 可動率と稼働率が混ざり、 ライン同士を比べられない 3 入力のタイミングを決めない 表面化する場所:進捗表示 終業時のまとめ入力に戻り、 「リアルタイム」が名前だけになる 4 データの出口を決めない 表面化する場所:CSV出力の先 品番やライン名の表記が合わず、 基幹やMESへ渡すときに作り直す
紙の日報をタブレットへ移すときに起きやすい4つの失敗と、それが表面化する場所

ここから取り上げる4つの失敗は、カミナシに限らず、紙の生産記録を端末入力に置き換えるどの製品でも起きます。リリースの機能一覧に当てはめると、失敗1は機能1と5、失敗2は機能4、失敗3は機能3、失敗4は機能6に関わります。

失敗1・2:紙の様式を写し、指標の定義を決めないまま集計する

回避策は、入力画面を作る前に停止理由と不良区分のコード表を決めることです。紙の日報を1カ月分さかのぼり、実際に書かれた理由を書き出して20〜30程度に寄せると、現場が迷わない粒度に収まりやすくなります。分類を後から変えると過去のデータと比べられなくなるので、最初に「大分類は固定、小分類は追加可」という決め方をしておくと運用が楽になります。コード体系の考え方は不良コード体系の設計とダウンタイムの記録と分析で詳しく扱っています。

回避策は、分母に何を入れるかを先に文書にすることです。計画停止(昼休み、朝礼、予定した段取り)を分母から外すのか、チョコ停を停止として記録するのか。この2点が拠点やラインごとに違うと、数字を並べても比較になりません。OEE(設備総合効率)まで進める予定がある場合は、OEEの算出ロジックの定義と最初から揃えておくと、後で計算し直さずに済みます。

失敗3:入力のタイミングを決めず、終業時のまとめ入力に戻る

回避策は、記録の種類ごとに入力の時点を決めることです。停止は発生したときか再開したとき、出来高は1時間ごとか段取り替えのとき、不良は検出したとき、というように決め、作業標準に書き込みます。1回の入力にかかる操作は3タップ程度までに抑えます。手が汚れる工程や手袋をする工程では、タブレットの置き場所と画面の大きさが入力率を左右します。

設備から停止信号を自動で取れる場合でも、理由の入力は人に残ります。リリースも、IoTやPLCからの自動収集では停止の事実と時間は分かっても、停止理由や不良の内容、作業者の対処は把握しにくいと書いています。信号で停止を検知し、再開時に理由の入力を促す、という分担にすると入力漏れが減ります。

失敗4:CSVの出口を決めず、マスタが別々に育つ

今回の製品で明記されているデータの出口はCSV出力だけです。API連携については記載がないため、基幹システムやBIへの自動連携が要件になる場合は、提供元に仕様を確認する必要があります。回避策としては、導入の初日から品番とライン名を基幹側のコードに合わせて登録し、CSVの列定義を一度決めておくことです。これだけで、将来どの製品に移っても、データを捨てずに持っていけます。

どこまでを軽い記録ツールで済ませ、どこからMESが必要になるかの線引きは、ロット単位のトレーサビリティや電子署名が要るかどうかで決まります。規制対応で記録の真正性が問われる業種では、端末入力にしても紙の証跡が残る場面があります。この区分は製造現場のペーパーレス化はどこまでできるかで整理しています。作業者端末を軸にした海外製品の動向はコネクテッドワーカー市場の記事が参考になります。

よくある質問

カミナシ 生産実績はMESですか

リリースでは「生産実績管理システム」と位置づけられています。出来高・不良・停止の記録と、可動率やサイクルタイムなどの集計・可視化が中心で、作業指示、ロット単位のトレーサビリティ、ERPとの連携といったMESの代表的な機能はリリースにも製品ページにも書かれていません。紙の記録をデジタルに移す最初の段階に向けた製品と読むのが妥当です。

いつから使えて、費用はいくらですか

提供開始は2026年11月1日です。料金は初期費用と月額費用によるプラン制で、具体的な金額は公表されていません。製品ページには、最短1週間で運用を始められること、タブレットは利用者側で用意することが書かれています。

設備の稼働データと自動でつなげられますか

2026年10月21日時点のリリースでは、設備データとの連携は導入企業のコメントの中で今後の期待として触れられているだけで、提供済みの機能としての記載はありません。同日発表の「現場オペレーションHub」構想でも、IoTなどによるデータ範囲の拡大は時期を示さない今後の計画とされています。

この記事に出てくる用語

MES用語集(日・英・中)をすべて見る

この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス MESソリューション部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。