「歩留まり92%」が改善につながらない理由

歩留まりは、投入に対する良品産出の比率です。定義は単純ですが、この1つの数字には性質の違う損失が全部混ざっています。不良として廃棄された分、手直しで救われた分(工数は失われている)、サンプリングで抜かれた分、段取りで捨てたスタートロス、計量誤差や蒸発などの目減り。92%という合計値からは、どの損失を、誰が、どう減らせばよいのかが読み取れません。

さらに悪いことに、集計の定義が曖昧なまま数字だけが独り歩きします。手直し後に合格した品は分子に入っているのか。サンプル抜き取りは損失に数えるのか。工程をまたぐ歩留まりは掛け算されているのか。定義が揃っていない歩留まりは、ライン間・月次間の比較に使えず、「今月は下がった/上がった」という感想を生むだけです。

歩留まり分析の設計とは、レポート画面の設計ではありません。損失を分解できる粒度で実績を取り、定義を固定し、分解の順序を決めておくことです。KPIとしての実績分析の全体像は実績分析で扱っており、この記事はその中の「歩留まり」に絞って、損失の分解と改善の回し方を設計します。

指標の使い分け:直行率とRTYを併記する

歩留まり系の指標は複数あり、それぞれ見える損失が違います。混ぜずに併記するのが原則です。

指標定義見える損失隠れる損失
最終歩留まり(Final Yield)工程の良品産出数 ÷ 投入数廃棄・数量ロス手直しの工数・コスト(直った品は良品に数えられる)
直行率(FPY:First Pass Yield)一発で合格した数 ÷ 投入数手直し・再検査の発生工程間の掛け算効果
RTY(Rolled Throughput Yield)全工程のFPYの積工程連鎖全体での「一発で通り抜ける確率」どの工程が主犯か(分解が必要)
量的歩留まり(プロセス系)産出量 ÷ 理論産出量(物質収支ベース)目減り・仕込みロス・端数個数ベースでは見えない損失

実務での使い分けはこうです。経営・原価の議論には最終歩留まりと量的歩留まり(失われた材料とコストの実額に直結するため)。改善の優先順位付けにはFPYとRTY(手直しで隠れた問題を露出させるため)。最終歩留まり98%のラインでも、FPYが80%なら、5個に1個を直しながら流している工場です。この状態は最終歩留まりだけを見ている限り「問題なし」に見え続けます。手直しが実績として記録されていなければFPYはそもそも計算できません。手直し・再作業の管理で述べた簿外リワークの排除は、歩留まり分析の前提条件です。

プロセス産業では、個数でなく量(質量・体積)の収支で歩留まりを見ます。投入量に対して、産出・廃棄・サンプル・残留(設備内のホールドアップ)の合計が合うか。この物質収支が取れる粒度で計量ポイントを設計していないと、「どこかで消えた3%」が恒常化します。

損失の分解:4段階のドリルダウンを設計する

分析の価値は、数字を「誰かのアクション」まで分解できるかで決まります。分解の順序を設計しておきます。

歩留まり損失を工程、損失区分、要因、ロット・条件の4段階で分解するツリー図 全体歩留まり 92% 損失8%=月額〇〇円 ① どの工程で 工程別のFPY・損失量 例:成形工程が損失の6割 ② どの損失区分で 廃棄/手直し/目減り/段取りロス 例:廃棄が大半、立上げ時に集中 ③ どの要因で 不良コード別 パレート分析 ④ どの条件で──ロット・材料・設備・シフト・条件値との相関 例:特定材料ロット×高湿度日に集中 → 対策仮説へ 分解できるかは実績データの「軸」で決まる:工程・損失区分・不良コード・ロット系譜・設備・時刻が実績に付いているか レポートツールの機能ではなく、データ収集の設計が分析の上限を規定する
歩留まり損失の4段階分解。各段階で「実績データにその軸が付いているか」が分解可能性を決める。

④まで降りると、分析は仮説になります。「この材料ロットのときに不良が多い」は相関であって原因ではありません。ここから先は、工程条件との突き合わせ(SPCの管理図や工程パラメータのトレンド)と現場・技術部門の検証に引き継ぎます。歩留まり分析の役割は、検証すべき仮説を、勘ではなくデータで絞り込むことまでです。

この図の下段がこの記事で最も伝えたい点です。分解の各段階は、実績データにその軸が記録されていて初めて可能になります。損失区分が「その他」に9割入っている、不良コードが粗すぎる(不良コード体系の設計)、材料ロットと製品ロットの紐づけ(ジェネアロジー)が取れていない、この状態では、どんなBIツールを買っても②や④で分解が止まります。歩留まり分析の設計は、レポートからの逆算でデータ収集を設計することと同義です。

改善の回し方:分析を「定例の意思決定」に接続する

データと画面が揃っても、改善は自動には始まりません。運用側の設計を3点決めておきます。

第一に、損失を金額に変換する。歩留まり1%の改善が月にいくらかを、材料費・加工費から換算するロジックを決め、レポートに常に金額を併記します。優先順位の議論が「率」で行われると工程間の比較ができません(同じ1%でも、材料費の高い工程とそうでない工程では価値が桁違いです)。金額化して初めて、改善テーマの優先順位と投資判断が同じ土俵に乗ります。

第二に、会議体と担当を決める。週次でライン単位のパレート上位を見る現場会議、月次で金額インパクトの大きいテーマを選定し担当と期限を付ける工場会議、という2層が典型です。重要なのは、テーマ選定の場で「新しい分析」をしないことです。分析は事前にデータで済ませ、会議は選定と進捗確認に使う。会議中にExcelを操作し始める運用は、分析担当者の属人化と会議の長時間化を招きます。

第三に、対策の効果をデータで閉じる。対策実施日を記録し、実施前後の歩留まりを同一条件(品目・設備)で比較して効果を確認する。効果が出ていなければテーマを閉じずに戻す。この「閉じる」プロセスがないと、対策リストは増え続け、効いていない対策が成功として記憶されます。

よくある質問

歩留まりの分析は、MESの機能でやるべきですか。BIツールに出してやるべきですか。

役割で分けるのが答えです。定型の分解(工程別・区分別・コード別のパレート、トレンド、金額換算)は、現場と管理者が毎日・毎週見るものなので、MES側の標準レポートまたはダッシュボードで完結させ、操作なしで見られる状態にします。一方、④段階の探索的な相関分析(材料ロット・環境条件・設備パラメータとの突き合わせ)は、データの結合と試行錯誤が主体であり、BI・分析ツールの領域です。この場合も、分析用データはMESから一貫した定義で出す必要があり、抽出のたびに定義を手作業で組み立てる状態を放置すると、部署ごとに違う歩留まりの数字が生まれます。

多品種少量の工場では、品目ごとのデータが少なすぎて分析になりません。

品目単位の集計をあきらめ、共通の軸で束ねるのが定石です。具体的には、品目ではなく工程×不良コードで集計する(品目が違っても「穴あけ工程のバリ」は同じ問題であることが多い)、品目を材質・サイズ・形状などの特性でグループ化して集計する、ロット数ではなく損失金額で優先順位を付ける、の3つです。また多品種少量では、損失が立ち上げ(初品調整・条件出し)に集中する構造があり、「立ち上げロス」を損失区分として独立させると、量産中の不良とは別の改善テーマ(条件出しの標準化・初品検査の設計)として扱えるようになります。

歩留まりの目標値はどう設定すべきですか。

一律の目標率(「全ライン95%」など)は勧めません。工程の難易度が違うラインに同じ率を課すと、達成困難なラインは数字づくり(分類の付け替え)に走り、余裕のあるラインは改善を止めます。実務的な設定方法は2つあります。1つは自ライン基準:直近6〜12か月の実績分布から、中央値と良好期の値(上位四分位など)を出し、「良好期の状態を標準にする」ことを当面の目標にする方法。もう1つは理論値基準:設計上避けられない損失(サンプリング、規定のスタートロス)だけを引いた理論歩留まりを算出し、実績との差を「削減可能な損失」として目標化する方法です。後者は説明力が高い一方、理論値の合意に技術部門の工数がかかります。

この記事を書いた人

S

株式会社サオス MESソリューション部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。