損失を生むのは歩行時間ではなく取り違えです

ピッキングの改善は、しばしば「歩行距離の短縮」として語られます。しかしMESの観点で本当に効くのは、間違ったロットを取ってラインへ流してしまう事故を、投入前に止めることです。

歩行時間の1日30分の削減は、金額にすれば1人あたり年間数十万円です。一方、材料ロットの取り違えは、それが完成品に組み込まれたあとに発覚すると、当該ロットの製造分を全数調査し、場合によっては出荷済み分を回収することになります。損失の桁が2つ以上違います。

したがってピッキング支援の設計は、効率ではなく誤りの検出強度から入ります。効率は、検出強度を決めたあとに、その制約のなかで最適化する順序です。

4つのピッキング方式と、MESが関与すべき場面

まず方式を整理します。倉庫側の都合で選ばれることが多いのですが、MES側から見ると「投入時にロットが特定できるか」で優劣が変わります。

方式内容投入時のロット特定向く条件
オーダー別(シングル)1つの製造指図分をまとめて取る容易。指図とピック単位が1対1指図あたりの部品点数が多い組立
品目別(トータル)同じ品目を複数指図分まとめて取り、後で仕分ける難しい。仕分け時に指図へ紐づけ直す工程が要る同一品目を大量に使う量産
波(バッチ/ウェーブ)時間帯で区切って複数指図をまとめて処理中。仕分けステーションでの検証が必須出庫件数が多く、時間帯で波がある倉庫
キッティング(部品セット化)1製造単位分の部品を1つの容器にまとめる最も容易。容器=1指図分多品種少量、規制産業、高価部品

キッティングは、MESとの相性が最も良い方式です。容器(キット)に1つのIDを振り、そのIDに含まれる部品ロットを紐づけておけば、ライン側では容器IDを1回スキャンするだけで全部品のロットが確定します。作業者のスキャン回数が減り、しかも系譜は完全に取れます。

一方で、キッティングは倉庫側の工数が増えます。この工数を「無駄」と見るか「ラインの検証工数の前倒し」と見るかで判断が分かれます。実装経験としては、部品点数が10点を超え、かつロット管理が必要な材料が3点以上ある工程では、キッティングのほうが総工数が下がることが多いです。

検証の強度を4段階で設計する

ここが設計の核心です。同じ「バーコードを読む」でも、読んだ結果をどう扱うかで意味がまったく違います。

ピッキング検証の4段階を示す階段図 レベル0:指示だけ出す(紙・画面) 誤りは検出されない。記録も残らない。ロット管理は成立しない レベル1:取った実績を記録する(スキャン記録のみ) 事後に追跡できる。ただし誤りはラインで発覚するか、発覚しない レベル2:品目一致を検証する(違えば警告) 品目違いは止まる。ロット違い・期限切れは通る。警告は無視されうる レベル3:品目+ロット+状態を検証し、不一致なら次へ進ませない 期限切れ・未検査・保留品を物理的に投入できなくする。例外手順が必須 レベル4:レベル3+二重確認(別の作業者または画像・重量) 医薬の秤量、航空宇宙の重要部品など。工数は最大。適用範囲を絞る前提 検出強度と工数
ピッキング検証の4段階。上に行くほど誤りを止められるが、現場の操作と例外処理の設計負荷が増える。工程・材料ごとに段階を選ぶ。

すべての材料をレベル3以上にする必要はありません。現実的な設計は次のとおりです。

  • レベル3を適用する材料:有効期限がある、検査合格が投入条件になる、規制対象、外観が似ていて取り違えやすい、単価が高い
  • レベル1〜2で足りる材料:ねじ・ワッシャなどの標準部品、消耗品、取り違えても機能に影響しないもの

品目マスタに「検証レベル」の属性を持たせ、材料ごとに設定できるようにしておくのが実装の定石です。この属性を持たない製品では、ライン全体で一律の強度になり、結果として「厳しすぎて現場が回らない」か「緩すぎて意味がない」のどちらかになります。

設計で決める3項目

1. 指示の出し方(誰が指示元か)

ピック指示を出すのはMESか、WMSか、ERPか。原則は、製造指図に紐づく材料出庫はMESが起点、それ以外の入出庫(受入、出荷、拠点間移動)はWMSまたはERPが起点です。この分担が曖昧だと、同じ在庫に対して2系統の指示が飛びます。詳細はMESとWMSの連携設計と一体で決めます。

2. 引き当てるロットを、誰がいつ決めるか

選択肢は3つです。

  • システムが指定する(先入先出/期限順):取り違えを防げるが、指定されたロットが取りにくい位置にあると現場が困る
  • 作業者が選ぶ:柔軟だが、期限の古いものが残り続ける
  • 候補提示+作業者選択:システムが上位3候補を出し、その中から選ぶ。多くの現場でこれが着地点

期限管理が厳しい材料は1つ目、それ以外は3つ目、という使い分けが実用的です。

3. 数量差異の扱い

指示10個に対して9個しか取れなかったとき、どうするか。「不足として記録して先へ進む」「差異理由の入力を必須にする」「そもそも次へ進ませない」の3択で、材料の重要度により変えます。ここを設計していないシステムは、稼働後に必ず在庫差異が積み上がります。

よくある実装の失敗3つ

失敗1:ラベルの読み取り設計を最後に回す。 検証レベル3を要件に入れたのに、現物にロット番号のバーコードが印字されていない、というのは実際によくあります。仕入先から届く材料にバーコードがない場合、受入時に自社ラベルを貼る工程を追加する必要があり、これは倉庫の工数増になります。ラベルの供給元(仕入先か自社か)と印字内容は、検証設計と同時に決めます。ラベル発行と印字検証は、ピッキング設計の前提条件です。

失敗2:端末の持ち方を現場と詰めない。 両手を使う作業でハンディ端末を持たせると、置き場所がなく、床に置かれ、壊れます。リングスキャナ、固定式スキャナ、音声ピッキングなど選択肢は複数あり、作業姿勢から決めるべき項目です。バーコード・RFIDの使い分けは、読み取り技術の選択と同時に「どう持つか」を含めて検討します。

失敗3:オフライン時の動作を決めない。 無線が届かない棚、地下倉庫、冷凍庫では通信が切れます。オフラインでスキャンだけ溜めて後で同期する設計にするなら、同期時に検証が失敗したらどうするか(すでに投入済みの材料が期限切れだった、など)を決めておく必要があります。「後から警告が出るが物はもう使われている」という状態を許容するかどうかは、業種によって答えが変わります。

製品差と、自動化との接続点

  • MES単体でピッキング指示まで出せるか:製造・品質・倉庫を単一モデルで扱うMOM型製品は標準機能で持ちます。製造実行特化型の製品では、WMS側に指示機能を置く前提になります。判断は在庫の所有権マップと整合させます。
  • 自動倉庫・AGVとの接続層:MESが直接マテハン機器を叩くのか、WCS(倉庫制御システム)を挟むのか。MESが直接叩く設計は、機器更新のたびにMESの改修が必要になります。間にWCSを置くほうが長期的な保守性は高くなります。
  • 重量検証・画像検証の統合:秤量値や撮影画像を検証に使えるか。医薬の秤量工程では重量による二重確認が求められることがあり、対応の有無で適合可否が変わります。
ピッキングをMESで組むと、WMSは不要になりますか?

なりません。両者の関心が違うためです。MESは「この指図に、この状態のロットを、この順序で使ってよいか」を判定します。WMSは「どこに何があり、どう動かせば作業効率が最大化するか」を最適化します。倉庫が小規模で、ロケーションが単純で、出庫が製造向けだけなら、MESの在庫機能でWMSの代替になります。しかし自動倉庫や複数階層のロケーション、出荷波取りが必要になると、MESの倉庫機能では作り込みが足りず、結局アドオン開発になります。判断の境目は、倉庫作業の複雑さであって、在庫の量ではありません。

検証を強くすると現場から反発が出ます。どう進めればよいですか?

反発の中身を分けて扱うと進みます。多くの場合、反発は「厳しくすること」ではなく「例外時に仕事が止まること」に向けられています。したがって、①最初に例外承認の経路を作り、承認者を現場の班長クラスに置く、②検証レベル3を適用する材料を最初は3〜5品目に絞る、③例外の発生件数を毎日見て、多発する品目は原因(ラベル品質、置き場、マスタ誤り)を潰す、という順序で進めます。いきなり全品目をレベル3にすると、例外が1日に何十件も出て、承認が形骸化します。適用範囲を絞って例外をゼロに近づけてから広げるほうが、最終的に速く定着します。

ピッキングの実績は、どこまで細かく記録すべきですか?

最低限、①いつ、②誰が、③どの在庫単位(ロット/シリアル)を、④いくつ、⑤どの指図・工程に対して取ったか、の5項目です。ここに加えて、検証レベル3以上を適用する材料では、⑥検証の結果(一致/例外承認)と⑦例外の場合の承認者と理由を残します。逆に、歩行時間や作業時間の細かい計測は、改善プロジェクトを回す期間だけ取得し、常時記録する必要はありません。常時記録する項目を増やすほど、端末の操作が増え、記録の精度が落ちるというトレードオフがあります。

この記事を書いた人

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株式会社サオス MESソリューション部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。