ABI Researchが2026年9月23日に発表したこと

市場調査会社ABI Researchは2026年9月23日、報告書「Beyond MES: The State of Manufacturing Operations Management (MOM) and MOM-Like Solutions」の要旨をプレスリリースで公開しました。柱は2つです。

1つ目は市場予測です。MES市場は2026年の220億ドルから2036年には430億ドルへほぼ倍増し、2025〜2036年のCAGR(年平均成長率)は7.6%になるとしています。成長の中心はSaaS展開で、モノリシックなレガシーアーキテクチャからの移行が新規売上の大半を占めると分析しています。

2つ目は、この市場の呼び方をめぐる指摘です。同社シニアアナリストのColin McMahon氏は「MES対MOMのブランディング論争は非現実的であり、終わらせるべきだ」と述べました。ベンダー各社がMES・MOM・その隣接ラベルを一貫性のないまま使い続けており、その表記が実際の機能や顧客価値と対応していない、という指摘です。

MES市場規模(2026年)
220億ドル
ABI Research(2026年9月23日発表)
MES市場規模の予測(2036年)
430億ドル
同上
CAGR(2025〜2036年)
7.6%
同上
今後12ヶ月でMES投資意欲が高まっている離散製造業の比率
31%
同上(前回調査時は26%)

なぜ「呼び方」が論点になるのか

MOMという言葉は、2005年前後にISA-95の対象範囲が広がったことを背景に生まれた概念です。単一のソフトウェア製品を指すのではなく、生産・品質・保守・在庫の各管理を事業目標に沿って統合する「考え方の枠組み」として使われてきました。ところがベンダーの製品名・カテゴリ表記では、MES・MOM・「MOM-like solutions」が明確な線引きなく併用されており、購買側からすると同じ機能を指しているのか別物なのか判別しにくい状態が続いています。

McMahon氏はこの状況について、「製造業が気にしているのは競合する略語ではなく、そのプラットフォームが相互運用性・コンテキスト化されたデータ・デジタルファーストでAI対応の運用を実務的に支援できるかどうかだ」と述べています。さらに「正しいソリューションのほうが、正しい略語より重要だ」とも指摘し、手作業でのデータ入力への依存を減らし、つながった状態でコンテキスト化された運用データを軸に構築するプロバイダーこそが、拡張性のある分析・迅速な意思決定・より強い製造成果を支える立場になる、との見立てを示しました。

この主張自体は目新しくありません。日本語圏でも「MESとMOMの違い」を解説する記事は珍しくないためです。しかし今回の報告書が示しているのは、その論争を続けること自体が2026年時点でもはや実務上の意味を失っている、という一歩踏み込んだ立場です。ABI Researchは今後のMES市場の成長軸を、機械由来データの活用、リアルタイムのコンテキスト化、API主導の連携、AI支援による意思決定の4点に置くとしており、呼称ではなくこの4点を評価軸にすべきだという主張につながります。

数字の中身をどう読むか

430億ドルという2036年予測は、単独では判断材料になりません。本サイトが別記事でまとめたとおり、MES市場規模は調査会社によって定義がかなり異なり、2025年基準で144.7億ドルから176億ドルまで20%以上の開きがあることが分かっています。ABI Researchの「2026年に220億ドル」という数字も、ライセンス売上だけを指すのか、実装サービスやMOM全体を含むのかは、今回のプレスリリースの範囲では明記されていません。したがって430億ドルという着地点は、他社予測との単純な比較には使えない点に注意が必要です。

一方で、離散製造業における「今後12ヶ月の投資意欲」が26%から31%へ伸びたという数字は、単体の市場規模予測より実務的な意味を持ちます。これはRockwellの2026年調査でMES導入済み93%・全社統合23%だったという、既に導入した企業側の「広げる」課題とは別の軸で、「まだ本格導入していない離散製造業がどれだけ動き出しているか」を示す数字だからです。両者を合わせて読むと、欧米のMES市場は「未導入層の投資意欲が緩やかに上向く」局面と、「導入済み層が全社統合に苦労している」局面が同時に進行していることになります。

日本の選定実務への影響

日本語のMES選定では、いまも「これはMESなのかMOMなのか」という分類論から入る提案書や比較表を見かけます。ABI Researchの立場に立てば、この分類自体に時間を使うより、相互運用性・データのコンテキスト化・AI対応の3点を評価軸に据えたRFP設計に切り替えるほうが、報告書が示す市場の方向性と整合します。特にAPI主導の連携という論点は、Unified Namespaceやコンポーザブル型のMESを検討している企業にとって、ベンダー選定時の質問項目に直接反映できる部分です。

もっとも、今回のプレスリリースは要旨のみの公開であり、報告書本体(有償レポート)が示す地域別内訳や業種別の投資意欲データまでは確認できていません。31%・26%という数字の調査対象人数や調査時期についても、公開情報の範囲では明記されていないため、今後の追加情報を待つ必要があります。

よくある質問

ABI ResearchのMES市場予測は、他の調査会社の数字とどう違いますか

本サイトの別記事で比較したGrand View Research・Mordor Intelligence・The Insight Partners・MarketsandMarketsの4社は、いずれも2025年基準で144.7億〜176億ドルという規模を示しています。ABI Researchの「2026年に220億ドル」は基準年が1年ずれているうえ、算出の定義がプレスリリースの範囲では明記されていないため、これらの数字と単純に並べて比較することはできません。

「MES対MOM論争を終わらせるべき」という主張は、MOMという言葉を使わなくなるという意味ですか

そうではありません。ABI Research自身、報告書のタイトルに「Manufacturing Operations Management (MOM)」という言葉を使っています。主張の趣旨は、ベンダーや購買側がMESかMOMかという分類にこだわるより、相互運用性・データのコンテキスト化・AI対応という実質的な評価軸に注意を向けるべきだ、という提言です。

この報告書は日本のMES市場にも当てはまりますか

報告書の対象範囲や地域別内訳は、今回公開されているプレスリリースの要旨からは確認できません。ただし「カテゴリ名より相互運用性とデータのコンテキスト化を評価軸にする」という提言自体は、地域を問わず選定実務に適用できる一般論として参考になります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス MESソリューション部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。