違いは「日次の指図」で線が引かれる
SAP ERP 6.0 の標準保守が終わる2027年12月31日まで、残りは14か月です。SAPは2020年2月の発表で、ERP 6.0 を含む Business Suite 7 の標準保守を2027年末まで、追加料金を払う延長保守を2030年末までとしました。そこから逆算すると、2027年中に基幹システムの更新を終えたい工場は、いま要件定義の最中にあります。その場で出るのが「生産管理システムを入れ替えるなら、MESも要るのか」という問いです。
答えの出発点は、二つのシステムがどの単位で仕事をするかの違いです。生産管理システムは、受注や需要予測から月・週の生産計画を立て、所要量を計算して材料を手配し、日ごとの製造指図を出すところまでを受け持ちます。MESは、その日次の指図を受け取り、どの設備で何時から誰が作るかに分け、現場での作業指示と実績の収集を受け持ちます。
国際規格 ISA-95 は、この境目を階層で示しています。ISAの解説ページによれば、レベル4は「事業の運営に関わるすべての活動」でERPが含まれ、レベル3は製造オペレーションの管理でMESが含まれます。ISA-95 が主に定めているのは、この二つのレベルのあいだのインターフェースです。日本で「生産管理システム」と呼ばれる製品の多くは、販売・購買・原価まで含めてレベル4側に立っています。
国産パッケージの製品構成も同じ線を引いています。ビジネスエンジニアリングの mcframe 7 は、生産・販売・在庫を扱う「SCM」と、MESにあたる「LiteMES」を別の製品として並べています。同社の製品ページは、LiteMES を「SCMの日々の製造指示」を時間単位の作業計画に具体化し、現場の実績を収集する製品として説明しています(製品の詳細はmcframe 7 LiteMES の製品ページ)。
業務ごとに並べると、受け持ちの違いは次のようになります。右端の列は、両方を入れる工場で担当の取り合いになりやすい箇所です。
| 業務 | 生産管理システム | MES | 境目で揉めやすい点 |
|---|---|---|---|
| 計画 | 月・週・日の生産計画、所要量計算 | 時間単位の差立て、設備への割付 | 日次計画をどちらで確定させるか |
| 指図 | 製造指図(品目・数量・納期)の発行 | 指図を工程・設備・作業者に分解して指示 | 指図の変更・分割をどちらで受けるか |
| 実績 | 完成数・投入数を日次や指図単位で受け取る | 作業開始・終了、設備信号、不良を即時に収集 | 実績を返す頻度と粒度 |
| 在庫 | 帳簿在庫、引当、購買発注 | 工程内の仕掛・材料の現品、投入時の照合 | 仕掛在庫をどちらの数字で正とするか |
| 原価 | 標準原価、実際原価の計算 | 原価計算の元になる工数・設備時間・歩留まりの記録 | 工数の集計単位 |
| 品質・記録 | 検査結果の集計(持たない製品も多い) | 工程内検査、ロットの系譜、作業記録 | 顧客や規制が求める記録をどこに残すか |
この境目の考え方は、MESとERP・SCADA・PLCの関係を整理した責任範囲の記事でも扱っています。本記事では、そのうち日本で「生産管理システム」と呼ばれる層とMESの二つに絞ります。
生産管理システムだけで足りる工場、MESが別に要る工場
両方が要るかどうかは、工場の規模よりも「日次の指図を出したあと、現場で何が起きるか」で決まります。以下は当サイトが導入プロジェクトで見てきた傾向をもとにした目安で、各条件の線引きは編集部の見立てです。
| 条件 | 生産管理システムだけで足りやすい | MESが別に要りやすい |
|---|---|---|
| ① 指図の粒度 | 日次の指図を現場の班長が紙やホワイトボードで割り振れば回る | 1日の中で設備・作業者への割付が何度も変わる |
| ② 実績を取る主体と時刻 | 事務所で翌朝に日報を入力すれば足りる | 作業の開始・終了や不良をその場で記録しないと次工程が動けない |
| ③ 記録の要求 | 顧客・規制が求めるのは出荷単位の検査成績書まで | 工程ごとの作業者・設備・条件・材料ロットの記録を求められる(自動車部品、医薬品、医療機器など) |
| ④ 設備とのつながり | 設備のデータは保全担当が個別に見る | 設備の稼働・停止・加工条件を実績や品質記録に結びつけたい |
| ⑤ 段取り替えの頻度 | 1ラインで同じ品目を長く流す | 品種切替が1日に何度もあり、順序の組み替えで出来高が変わる |
| ⑥ 工程の数とつながり | 工程が少なく、仕掛がほとんど滞留しない | 工程間に仕掛が溜まり、どこに何があるかを現品で追う必要がある |
①〜⑥のうち右の列に当てはまるものが一つもなければ、生産管理システムの実績入力で十分なことが多く、MESを入れても使われない画面が増えるだけになりがちです。逆に③に当てはまる工場は、一つだけでもMESの検討を外せません。顧客監査や査察で求められるのは工程の記録であり、生産管理システムの実績入力では、誰がどの設備でどの材料を使ったかまでは残らない製品が大半です。
⑤については、品種が多いだけではMESが効くとは限りません。効果を分けるのは品種数ではなく段取り比率で、その考え方は多品種少量生産とMESの記事で詳しく書いています。
両方を入れる工場で、境目の機能を二重に作らない
両方が要ると決まった工場で次に起きる失敗は、境目の機能を両方のシステムに作ってしまうことです。典型は日次計画です。生産管理システムが日次の計画を確定し、MESもスケジューラで時間単位の計画を組み直すと、指図の変更がどちらから入ったかで数字が食い違います。上の比較表の右端の列は、要件定義の早い段階で「どちらを正とするか」を1行ずつ決めておく項目の一覧として使えます。
mcframe 7 の例では、SCM側が日々の製造指示を持ち、LiteMES側がそれを時間単位の作業計画に具体化して実績をSCMに返す、という分担が製品の説明に書かれています。同じシリーズの製品でもこのように線が引かれているので、別々のベンダーの製品を組み合わせる場合は、なおさら境目を文書で決めておく必要があります。製番で進捗を追う機能は mcframe 7 SCM にもあり、どの粒度の進捗をどちらで見るかも決めておく項目に入ります。
実績を返す頻度も決めておく必要があります。生産管理システムの在庫と原価は、MESから返る実績を前提に計算されます。返す単位を指図の完了時にするか、工程ごと・一定時間ごとにするかで、事務所側が見る仕掛在庫の鮮度が変わります。原価計算に使う工数や設備時間も同じで、MESで指図単位に集計して返すのか、工程ごとの明細のまま返すのかで、生産管理システム側に要る項目が変わります。
2027年の更新で、先に決めておくこと
基幹システムの更新とMESの導入を同時に進めるかどうかは、工場ごとに答えが分かれます。上の6条件で右の列に当てはまるものがあり、かつ現行の実績収集が紙やExcelで回っている工場なら、更新と同時にMESとの境目を設計しておくほうが、後から作り直すより手戻りが少なく済みます。一方、右の列に当てはまるものが少ない工場は、まず生産管理システムの更新を終え、実績入力で何が足りないかを1年ほど運用で確かめてからMESを検討しても遅くありません。
どちらの場合も、生産管理システムの要件定義の段階で、指図をMESに渡すインターフェースと、実績を受け取るインターフェースの項目だけは決めておくことをすすめます。後からMESを足すときに、生産管理システム側の改修が要らなくなるからです。既存の生産管理システムからMESへ機能を移す場合の移行方式は、生産管理システムからMESへの移行の記事にまとめています。
よくある質問
MESと生産管理システムの違いは何ですか
生産管理システムは、受注や需要予測から生産計画を立て、材料を手配し、日次の製造指図を出すまでを受け持ちます。MESは、その指図を設備・作業者・時間の単位に分けて現場に指示し、作業の実績や工程の記録を集めます。ISA-95 の区分では、生産管理システムの多くはレベル4(事業の運営)、MESはレベル3(製造オペレーションの管理)にあたります。
生産管理とMES、どっちを先に入れるべきですか
多くの工場では生産管理システムが先です。MESは日次の製造指図を受け取って動くため、指図を出す仕組みが無いと働きません。例外は、顧客や規制から工程ごとの記録を求められていて、生産管理は既存の仕組みで回っている工場で、この場合はMESを先に入れ、既存の生産管理システムとつなぐ形になります。
生産管理システムにMES機能が付いていれば、MESは不要ですか
実績を事務所や現場の端末で入力するだけなら、生産管理システムの機能で足りることが多いです。ただし、作業者・設備・材料ロット・加工条件を1件の作業に結びつけた工程記録や、設備信号の自動取り込みが必要な工場では、その機能で足りるかを実際の画面で確かめる必要があります。
この記事に出てくる用語
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